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ラノベ感想:第25回電撃小説大賞受賞作3作品。『つるぎのかなた』『リベリオ・マキナ』『鏡のむこうの最果て図書館』

ラノベ感想
02 /25 2019

金賞受賞作、渋谷瑞也 『つるぎのかなた』

特殊設定一切なしの剣道もの。
色々あって剣道から離れていた主人公が再び剣道を始めるという、スポコン王道のあれ。

内容自体は王道なんだけど、視点変更が多くとにかく読みづらい。
剣道部チームが五人、ライバル、その妹、姉、顧問など主要人物だけでも二桁を超える上に名前に特徴のない人が多いため今が誰の視点かすぐにわからなくなる。

なんというか、新人賞なのに漫画のノベライズを読んでいるみたいな感覚を味わったな。
視点変更を多用するのも漫画のコマ割りを文章化したものだと思えば納得できる。
最初からキャラの関係性やイラストイメージがあればこの読みづらさはだいぶ緩和すると思われる。



銀賞受賞作、ミサキナギ『リベリオ・マキナ』

いわゆるロボットもの。
吸血鬼がいる世界で機械人形の主人公とその製作者の娘の主従、そして吸血鬼ヒロインというダブルヒロイン構成のわかりやすいラノベ。

電撃小説大賞を読みなれた人には『エスケヱプ・スピヰド』を20倍くらい薄めたようなものと言えば伝わるだろうか。
ロボットものとしては深く踏み込まずSFと呼べるものではなく、舞台設定も20世紀ドイツだがほぼ現代日本と変わらぬ描写なのでほとんど意味を成していない。
バトル描写も武器の間合いと書くべき場所で刃渡りと書いたりととにかく拙い。

序盤に出てきた機械人形は古くなると暴走するという設定や機械人形のコンテスト、主人公である水無月たち白檀式に隠された秘密など投げっぱなしの展開が多いのもマイナス。



銀賞受賞作、冬月いろり『鏡のむこうの最果て図書館』
今回読んだ三冊の中では一番。

魔王や勇者がいる世界だけど、主人公とヒロインはそんな彼らとは直接関係のない図書館の主と村娘。
ファンタジーというよりは童話といったほうが近い児童文学調のラノベ。

序盤は主人公とヒロインの交流や図書館での日常が中心。
そのため話の着地点がわからなくどうなるかと思ったものの、中盤からは主人公の秘密が判明するなど少しずつ話が動き出す。

意外性はないが表紙やあらすじから感じられる雰囲気そのままの良い意味で期待を裏切らない作品。
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ラノベ感想:『キラプリおじさんと幼女先輩』「少女向け筐体ゲームを題材にしたゲーセンもの。タイトルも表紙もアレだけど健全な青春ものですよ」

ラノベ感想
02 /19 2019

第23回電撃小説大賞銀賞受賞作。岩沢藍著『キラプリおじさんと幼女先輩』

予想外に面白かった。
表紙とタイトルからは想像できないが至極真っ当なゲーセン青春もの&オタ友もの。

これは現代版『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』だね。
本州の最西端という地方都市。娯楽に乏しい場所で高校生の主人公が熱中したのは少女向け筐体ゲーム『キラプリ』だった。

とまあ、勘の良い人ならこの設定の時点ですぐにゲーセンものだと察しがつくことだろう。

90年代の格闘ゲームブーム全盛期。
ゲーセンなど不良のたまり場、ゲームなど無駄なものと偏見のまなざしを向けられながらもそこに価値を求めた若者たちがいた、というのは事実を元にした漫画『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』でも鮮明に描かれている。

この作品もエッセンスは完全に同じ。
同級生の誰もが興味を持たないどころか男が遊んでいればそれだけで白い目で見られるようなキラプリに熱中する男子高校生と、同じくそのゲームに夢中になる小5ヒロイン。

キラプリには全国ランクがあり、すでに地元では敵なしの(そもそもプレイ人口が少ない)彼らだが、全国にはまだまださらに上がいるという未知なる強敵のほのめかし。
リズムゲームであるキラプリを攻略するために自宅でのイメトレなど、ノリが完全にゲーセンもののそれ。

キラプリの設定の扱いが上手いな。
このゲームはクリアすれば洋服が手に入りレアリティの高いものを装備すればスコアも上がるのだが、主人公もヒロインもこだわりを持ちスコアのための最適解ではなくキャラクターに最も似合う衣装を用意する。

そのためハイスコアをたたき出すには本来必要ない高レベルなプレイが必要となるのだが、それが主人公の境遇とこだわりを貫くためには犠牲が伴うというテーマに合致している。

1巻の時点ではこれらの設定を料理してヒロインとの間にようやく友情が成立した所で終わる。
なので盛り上がりに欠けるといえば欠けるというのも正直なところ。

表紙は超絶に不健全オーラが漂っているものの、いわゆるロリコンギャグもラッキースケベもほとんどなし。
そこに不満を抱く人もいるだろうが、ゲーセンものの魅力をさっと楽しめる良作だったね。


ラノベ感想:『タタの魔法使い』2巻「学校ごと異世界転移ものの第2巻。今回はサバイバルサスペンスが中心」

ラノベ感想
10 /16 2018

電撃文庫、うーぱー著『タタの魔法使い』2巻、読了。

2018年の電撃小説大賞、大賞受賞作の続編。
1巻では学校ごと異世界へと転移し、無事に日本に帰還した生存者のインタビューを元に書いたドキュメンタリー(いわゆるモキュメンタリ―)形式という一風変わった手法で送った本作。

そういうこともあって続きを出すのは無理だろと思っていたのだが、なるほどこう料理したか。
今回は1巻最後にほのめかされた異世界に転移していた別の高校が主役。

1巻では「タタの魔法使いを倒せ」というRPG的な冒険型のクエストだったが、今回は「1ヶ月間生き延びろ」と地球に戻る条件が別のものになっている。

そのため1巻で見せた異世界文化との接触やモンスターとのバトルはほとんどなく、地下に転移してしまった学校でのサバイバルサスペンスが中心なので1巻と比べると全体的に起伏が乏しいというのが第一印象。


1巻の時と同じでシチュエーション特化な作品だね。
あらすじだけだと「異世界から帰還した人たちの話」だけで終わるほどシンプル。

なのでメインとなる「元の世界へ帰還する」というエピソードはあまり印象に残らないんだけど、随所に出てくるサブエピソードはとても印象に残る。

例えば「おばあさんの手を払ってぼた餅を落としてしまった」ある生徒の後悔から続くラストの救出劇や、将来の夢は「汚物は消毒」と書いたおかげで異世界で火炎放射器を使えるようになったアホな生徒(モヒカン肩パッド)などなど。


見どころの一つである「卒業文集に書いた夢が実現する」というネタは今回も面白い。
これ、やってることははったり重視の能力バトルものとあんま変わらないんだよな。拡大解釈の面白さ。

卒業文集に「魔法使い」と書いた生徒は「30歳まで童貞」という本当の意味が隠されていたため「絶対に30歳まで死なない」状態になっていたから生存出来たなど、事件終了後という設定を上手く活用している。


そんな感じで面白いといえば面白いんだけど中盤までまったく話が進まない本作だが、とある秘密が判明してから一転。
その途端に序盤に出てきた場面に一つの謎が生まれるため一気に結末まで読み進めることが出来た。このあたりの緩急のつけ方は上手かったな。


1巻のルポ調の書き方が好みだった人は問題なく楽しめるだろうけど、異世界文化との交流やら眉唾覚悟のうんちくが好みだった人はやや肩透かしを食らうといった2巻。

すでに3巻が予定されているようだが、次はどうするんだろう。
まだ語られていない異世界に残った人たちの話とかかな?

――――
感想リンク。
・『タタの魔法使い』1巻

ラノベ感想:「ラノベの表紙が話題になってるので洒落たデザインのラノベをいくつか紹介してみる」

ラノベ感想
09 /15 2018
最近話題のラノベの表紙についてのうんぬんですが、そういえばカッコイイ表紙についての意見をあまり見かけなかったので自分で書く。
最近自分が読んだ新しいもの限定で行きますよ。



電撃文庫、安里アサト著『86―エイティシックス―』
第23回電撃小説大賞、大賞受賞作。

表紙からして「ミリタリ」「ボーイ・ミーツ・ガール」そして「すれ違い」を感じさせる力作。
というのも、本書は主人公が被差別民兵士であり、上官であるヒロインとの交流とすれ違いがテーマになっているからだ。
(具体的な感想は過去に書いたこちらを参照)

主人公のカッコよさ、ヒロインのほどよいエッチさ(ガーターベルトフェチの作者も大満足)と、大賞受賞作だけにデザイン面での力の入れようもよくわかる。
タイトルの情報量を少なくし、題名で内容を説明せずイラストで作品のテーマを描くという傑作デザインと呼んで良いでしょう。




電撃文庫、瘤久保慎司著『錆喰いビスコ』
第24回電撃小説大賞、銀賞受賞作。

昨今では珍しい漫画調、それも少年漫画調の勢いのある絵柄がまず目に付く本書。
内容もそれに違わぬ荒唐無稽でいてパワーのあるものであり、これまた表紙のカラーと内容が合致した良デザイン。




ガガガ文庫、酒井田寛太郎著『ジャナ研の憂鬱な事件簿』
タイトルからわかるとおりミステリ、それも殺人事件が登場しない日常の謎(日ミス)をメインにした連作短編シリーズ。
ライトノベルと侮るなかれ、内容そのものはミステリレーベルから出ている本格的な謎解きものと遜色ないロジカルな推理が見所となっている。

なぜ四冊すべての表紙を並べたのかというと、イラストの傾向の移り変わりに注目して欲しいからだ。
左上の1巻から右下の4巻へと、巻を重ねるごとにキャラクターが小さくなっていくことがよくわかる。

おそらくこれは作品の雰囲気を重視したからだろう。
本書はミステリであり、キャラクターも魅力的ではあるが面白さの中核は彼らの周囲で起きる謎にある。

そのため表紙のデザインもまたキャラクターを中心にしたものから風景フォトのようなものへとシフトしていった。
このような表紙はライト文芸レーベルでよく使われるものであり、本書の雰囲気もまたそれらに近いので納得の変更と言えよう。

現在刊行中の四巻まで謎解きのクオリティがまったく下がらない、短編ミステリ好きにオススメできるシリーズだ。

ラノベ感想:『りゅうおうのおしごと!』9巻。「アニメ化もした将棋ラノベの9巻。今回は八一VS生石玉将、銀子VS天衣の二本立て」

ラノベ感想
08 /17 2018

GA文庫、白鳥士郎著『りゅうおうのおしごと!』9巻、読了。

面白かった!
8巻はアニメ化のタイミングにあわせての刊行だからか短編集で内容が薄めだったものの、今回は復活。
いつもの『りゅうおうのおしごと!』といった感じでプロ棋士の対決&女流棋士の対決の二本柱で進んでいく。

プロ棋士の対決も八一VS生石玉将というある種の師弟対決でとても盛り上がるのだが、今回のメインは女流戦。
銀子VS天衣というヒロイン同士のぶつかり合い。これがとても面白かった。

自分は前々から「サブキャラ同士の対決は主人公のものよりも面白くなる」と書いているものだけど、今回もそれが炸裂。

55戦無敗の銀子と若き天才の天衣のどちらが勝ってもおかしくない対決。
段位的には銀子が圧倒的に上回っており、初戦も当然ながら勝利を手にするのだがそのあとの解説でのやりとりがすごい。

あっさりと勝敗が決したから盛り上がらないのではない。
銀子の対局が盛り上がらないのはいつものことで、なぜなら銀子が勝つのは当たり前だからだ。

いままでずっと女性相手には勝ち続けてきたため観客どころか対戦する棋士すらも銀子が勝つことを当たり前だと考えていた。

だからわずか10歳の女の子が負けても無理もない。そんな達観した大人の慰めを跳ね飛ばす天衣!
駄々をこねる子供でしかないような強がりからの復活劇と、どこまでもがむしゃらに勝ちをもぎ取ろうとする姿勢がめっちゃくちゃに熱い!

『りゅうおうのおしごと!』は将棋を上手くバトルものというかスポコンものというか競技ものにしているなあ。

基本的にスポコンものはプレイヤー視点にすると内面の葛藤を描ける反面、対戦者のどちらが有利なのかを説明しづらくなる。

しかし将棋には対局を見守る記録係やら解説役などがおり、彼らの目を通して勝負がいまどうなってるのかの説明がある。

そのため、将棋に詳しくない読者(または読み流すような読者)も雰囲気からたった一手で勝敗の天秤が大きく傾いたことをすぐに把握できる。
この書き方はとても上手いと思うのよ。


相変わらず毎巻が何らかの最終回(ある人物の節目という意味)な本作だけど、今回も実に見事なひとつの区切りだったなあ。
続きも楽しみ。

――――
感想リンク。
『りゅうおうのおしごと!』1巻

fujimiti