FC2ブログ

ミステリ感想:『屍人荘の殺人』「ゾンビものパニックホラーのシチュエーションで本格ミステリを描いた第27回鮎川哲也賞受賞作」

ミステリ・SF感想
12 /10 2017

今村昌弘著『屍人荘の殺人』読了。
第27回鮎川哲也賞受賞作品。

うん、たしかに面白い。
特殊なシチュエーションの中でこそ起きた謎という特殊設定ミステリの形をちゃんと守っている。

あらすじや選評ではなぜかぼかされているんだけど、本書はゾンビ系パニックホラーと本格ミステリ的な謎解きを合体させた作品である。

バイオテロによってコンサート会場の客がゾンビ化し近くの別荘に滞在していた大学生たちが篭城して助けを待つという、ゾンビ映画ではおなじみのシチュエーション。

そのような極限状態の中で殺人事件が起き、その場にいた美女名探偵やら語り部たる主人公の行動によって謎が解き明かされていくという特殊設定型の本格ミステリ。

なんというか、15年くらい前にあった富士見ミステリー文庫で自分が読みたかったのはこういうのだったんだなあと懐かしい気分になった作品だったな。

どうでもいいゾンビの発生理由、美女名探偵と冴えない語り部という王道コンビ、薄っぺらいゾンビ映画談義に明日になれば忘れてしまうような犯人の動機など、傑作を評するときに使われるような頭をハンマーでガツンと殴られるような衝撃とは無縁なポップコーンとコーラをそっと差し出されたようなジャンク、ジャンク、ジャンク。

前代未聞の傑作でもなければまったく新しいネタで驚かせるでもなく、ネタとネタの組み合わせが光るライトな(それでいて謎そのものは濃厚な)本格ミステリと呼ぶに相応しい。
こういう作品はもっとたくさん世に出て欲しいのだが。

そういったジャンク的な軽さもある種の売りではあるのだが、謎そのものはとても魅力的。

なぜ、ゾンビに囲まれた状況で人を殺したのか?
なぜ、部屋を密室にしたのか?
なぜ、エレベーターを動かしたのか?

など、事件の中で出てきた疑問を列挙・検討していき、最後の最後にはじつに綺麗な解決を見せる。


新人賞でよく言われるような作者の持ち味やらオリジナリティといったものはあまり感じなかったものの、肩の力を抜いて読めるエンタメとしてはとても面白かった。

まだ作者買いできるほどひきつけられる魅力は感じなかったものの、今後の動向が気になる作家がまたひとり増えたという感じだ。
スポンサーサイト

ミステリ感想:青崎有吾『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』元ネタまとめ。「毎度おなじみ作中に出てくるオタネタの元ネタ解説」

ミステリ・SF感想
07 /19 2017

青崎有吾著『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

文庫版が発売するので毎回恒例のオタネタ解説と一言コメント
いってみよー。

なお、以下のページ数はすべてハードカバー版に準じます。
また、タイトルなど名前がそのまま出ているものや「たらららったら~」(『ドラえもん』)みたいな一般常識レベルのものも省いておりますので。

●『もう一色選べる丼』
・13P

「髪がボサボサで眼鏡をかけた中年のお父さんが、少女漫画チックなキャラクターを巻き込んで暴れまわっていた」

元ネタ不明。コミック文庫らしいけど、なんだろう?

・42P

「マリネラの国王みたいなギャグを言うな」

漫画『パタリロ』より。
ちなみに『パタリロ』ネタは過去にも使われている。

●『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』
・タイトル
この五十円玉うんぬんには元ネタがある。
詳しくは『五十円玉二十枚の謎』参照。


・95P

「“いかんだろ”より“イカんでしょ”の方がいいですよ」

アニメ『侵略!イカ娘』のOP『侵略ノススメ☆』から。
同じフレーズが何度も出てくる洗脳系ソングなので印象に残っている人も多いと思われる。

●『針宮理恵子のサードインパクト』
・100P

「不良っぽい高校生数人が主人公を囲んでいるシーン」

漫画『寄生獣』4巻より。
『寄生獣』はアニメ化もしたが、本書の中の時間軸ではまだ放送はされていないはず。

・112P

「風ヶ丘ちっちゃいものクラブ」

アニメ『おじゃる丸』に出てくる月光町ちっちゃいものクラブから。
『おじゃる丸』の電ボの声を脳内で再生しようとすると『ピタゴラスイッチ』のスーとごっちゃになる。

●『天使たちの残暑見舞い』
・167P

「そもそも女子カップルが取り憑いてるのは教室じゃなくて屋上だと相場が決まってる」

PCゲーム『屋上の百合霊さん』より。
裏染天馬はエロゲにも精通している模様。ここ、テストに出るからね。

・168P

「お姉さまの方が『タイが、曲がっていてよ』と~」

小説『マリア様がみてる』より。
今を遡ること15年ほど前に百合男子たちを日の当たる場所に招いた偉大なる作品。
アニメ『エロマンガ先生』でもかの有名なレイニー止めを経験させるために少しだけ登場。

●『世界一居心地の悪いサウナ』
・248P

「第二期二十話の学園祭の回以外見るべき点はなかった」

アニメ『けいおん!』第二期20話『またまた学園祭!』のこと。

――――――――――
感想リンク。
青崎有吾:『体育館の殺人』
青崎有吾:『体育館の殺人』元ネタまとめ。
青崎有吾:『水族館の殺人』
青崎有吾:『水族館の殺人』 元ネタまとめ
青崎有吾:『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

ミステリ感想:青崎有吾『水族館の殺人』元ネタまとめ。

ミステリ・SF感想
07 /29 2016

文庫版が発売するので、『体育館の殺人』に引き続き『水族館の殺人』の作中で登場したオタネタの元ネタをわかる限りまとめておきます。

調べたのはハードカバー版ですのでページ数もそれに準じております。
なお、『かんなぎ』『アラタカンガタリ』『野獣死すべし』のように直接作品名を記したものや一般的な言い回しの範疇を出ないもの、
(例:「生真面目な人間は自分のことを生真面目とは言わない」など)
は元ネタリストに載せませんのであしからず。


●『登場人物紹介』

「芸術はパーマだ」
「ただの人間には興味がないご様子」

岡本太郎氏の「芸術は爆発だ」と、『涼宮ハルヒの憂鬱』から涼宮ハルヒの台詞「ただの人間には興味がありません」。


●『プロローグ』
・10P

真っ赤な髪にドクロの髪留めをつけた上半身ビキニの少女

『天元突破グレンラガン』のヒロイン、ヨーコ。
他の作品にも出てきたポスターを調べれば裏染の好みがわかりそうだ。

・14P

「三万円はたいて集めたまどかの原画集が!」

『魔法少女まどか☆マギカ』の原画集のこと。
『体育館の殺人』で欲しがっていたものだが、ちゃんと購入できた模様。


●『第一章』
・章タイトル

「夏と丸美と私の死体」

乙一著『夏と花火と私の死体』から。

・62P:段落タイトル

「横浜鮫・屍動乱」

大沢在昌著『新宿鮫』シリーズ『屍蘭』より。


●『第二章』
・83P

段落タイトル「真っ赤な血海」

アニメ『武装錬金』OP『真赤な誓い』より。
だっだだだっだ~。

・112P

段落タイトル「容疑者が11人いる!」

萩尾望都著『11人いる!』より。


●『第三章』
・145P

段落タイトル「僕は妹に乞いをする」

青木琴美著『僕は妹に恋をする』より。

・148P

「ハカイダーかよ」「火の二日間だよ畜生」

『人造人間キカイダー』のライバルキャラハカイダーと『風の谷のナウシカ』の火の七日間より。
『ナウシカ』のネタは150Pでも使われている。

・174P

段落タイトル「トイレット博士による有意義な証言」
185P:「七年殺しが使えるね!」

とりいかずよし著『トイレット博士』に出てくる技。いわゆるカンチョー。

・195P

「ナディアの再放送の時間ですし」

アニメ『ふしぎの海のナディア』のこと。
この時期はちょうど土曜の夕方にNHKで再放送がやっていた。


●『第四章』
・198P

段落タイトル「モップは何でも知っている」

ジェイムズ・ヤッフェ著『ママは何でも知っている』より。
古いドラマに『パパは何でも知っている』もあるが、ミステリなのでおそらくはこちら。

・200P

「テレ朝でスマプリ見なきゃいかんからな」

アニメ『スマイルプリキュア!』のこと。
裏染が好きなプリキュアを当てた人にはあざとイエローの称号をプレゼント。

・210P

「黒い剣士編みたいなもんだ」

三浦建太郎著『ベルセルク』の序盤のこと。
『ベルセルク』は現在アニメも放送中。

・229P

段落タイトル「病弱イルカ娘」

安部真弘著『侵略!イカ娘』より。
イカ娘ネタは『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』でも使われた。

・239P

「クールボイスの緑川」

声優の緑川光氏にかけたネタ。

・245P

イルカの名前であるルフィン、イルカニ、ルカー、ティコ

それぞれ『ドラえもん のび太の南海大冒険』のルフィン、『海のトリトン』のルカー、『七つの海のティコ』に出てくるシャチ、ティコ。
イルカニの元ネタだけはわからなかった。
今回一番年代の範囲が広いネタだと思われる。

・248P

「昔、東京のある街で絵を売りつけられそうになったことがあるので」

一時期の秋葉原では絵画を押し売りする悪徳商法が横行していた。

・252P

段落タイトル「おどける大走査線」

ドラマ『踊る大走査線』より。

・261P

「柚乃でスク水とは、阿部洋一の漫画みたいだな」

阿部洋一『血潜り林檎と金魚鉢男』より。
柚乃でスク水でしかも妹だ。

・277P

「テニプリで海堂先輩がやってたからな」

許斐剛著『テニスの王子様』に出てくる特訓方法。
基本的にネタまみれな作品だけど、この特訓はわりとまとも。

・279P

向日葵ちゃん、姫子と千歌音ちゃん。

『ゆるゆり』と『神無月の巫女』から。どちらも百合漫画。
鏡華は「タイトルにゆるいと入っている時点で私の追い求めるものとは少し離れている」と言うが、『ゆるゆり』はガチレズがいる漫画なのでおそらくは日常系作品が好みではないのだろう。


●『第五章』
・283P

段落タイトル「狂乱家族実記」

日日日著『狂乱家族日記』より。
凶華様だ!

・287P

段落タイトル「経験上でも濃い死体」

おそらくはアニメ『中二病でも恋がしたい!』

・305P

「これで彼は人参になりました」

『ドラゴンボール』兎人参化から。握手をすると人参になる。

――――――――――
感想リンク。
青崎有吾:『体育館の殺人』
青崎有吾:『体育館の殺人』元ネタまとめ。
青崎有吾:『水族館の殺人』
青崎有吾:『水族館の殺人』 元ネタまとめ
青崎有吾:『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

青崎有吾『アンデッドガール マーダーファルス』感想。「若手気鋭作家によるライト文芸ミステリ。今回の題材は吸血鬼と人造人間」

ミステリ・SF感想
02 /03 2016


講談社タイガ、青崎有吾著『アンデッドガール マーダーファルス』読了。

若手本格ミステリ作家として活躍している青崎有吾先生の作品。
褒め言葉として、ライトノベルミステリとして良作だった。

同じくらいの分量の中編が二話掲載されており、最初の話は吸血鬼殺しを扱ったフーダニット、二番目の事件は人造人間を扱った不可能犯罪(密室)となっている。

この吸血鬼の話が、まさにザ・ライトノベルミステリといったところ。
プロローグで主人公にまつわる不思議な出来事&能力、そしてヒロインとの出会いやこことは違う世界の設定を紹介。
そして殺人事件が起き、探偵役として主人公が呼ばれてから物語が大きく動き出す。

作者がミステリ畑で活躍している人だけに、集めた証拠を整理して推理を組み立て、最後には読者をあっと驚かせるようなトリックも用意しているというスタンダートなミステリの様式にのっとった綺麗な作品だった。

さすがに、すれっからしのミステリ読みだと類例のトリックがいくつか思い浮かぶのですぐに真相を看破できるだろうが、
(実際、自分は読んでいる途中であのトリックだとわかってしまった。最後のヒントと謎もある程度特殊設定ミステリに親しんでいれば予測可能)
本書はライトノベル的な特殊設定とバトルアクションも用意しているので最後まで飽きさせない。

犯人が判明したあと主人公の秘密がわかるのだが、このときのバトル描写がこっそり秀逸。
過去の『体育館の殺人』などでは見られなかった文章の配置の仕方によってスピード感を出すという、ライトノベルではお馴染みのフォントいじりが炸裂。

主人公の飄々とした感じとマッチした、じつに映像的な描写はバトルものライトノベルのようでとても読み応えがあった。

事件が終わり、主人公とヒロインの目的が判明して次の物語に続いていくという、ライトノベルの新人賞おなじみの感じで第一話は終わる。

これで次の人造人間の話にも続くのだが、こちらはいまひとつ。
悪くはないのだが、まあそんな感じだよねといったところ。

正直なところ、一話目の吸血鬼の話が魅力的だったのでこれを膨らませて一巻もたせて、この人造人間の話はまた別で見たかったかもしれない。
(人造人間のネタはかなり小粒だったので、それはそれで難しそうだけど)

ライトノベルミステリとしては、かなり期待できる内容だったね。
ホームズやベルギーのハゲ親父などミステリでお馴染みの名探偵も存在する世界のようだし、登場人物のやりとりも面白い。

すでに続刊も予定されているようなので、続きも楽しみに待っています。

――――――――――
感想リンク。
青崎有吾:『体育館の殺人』
青崎有吾:『水族館の殺人』
青崎有吾:『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

『トリックスターズ(MW文庫版)』感想。「久住四季のデビュー作! 電撃文庫の魔術ミステリがメディアワークス文庫でリメイク!」

ミステリ・SF感想
01 /29 2016



メディアワークス文庫、久住四季著『トリックスターズ』読了。

2005年に電撃文庫から出版された著者のデビュー作のリメイク版。
ざっと読んだけど、基本的には電撃文庫版と同じだね。

魔術がある世界で殺人事件が起き、挑戦状を叩きつけてきた殺人犯を探し出すことと作者の仕掛けたトリックを見抜くのが目的という、ミステリ的な稚気にあふれた作品。

改めて読むと、現在数多く出版されているライト文芸レーベルのミステリそのままな作風だったんだな。
本格ものとして読んでしまうと可能性を排除しきれず、唯一無二の結論と呼ぶにはちょっと弱いので赤点なものの、インパクト重視のミステリとしては悪くないというやつ。

ライト文芸が流行ってくれたおかげでいまでは珍しくはないものの、出版当時はライトノベルレーベルでよくもまあここまでミステリミステリした作品が出たものだと驚いたものだ。

佐杏さん(表紙の人)の性別が女性から男性になっているので何かしらのネタが仕込まれているのかとも思ったけど、とくに何もなし。
この性別変更は気になる人もいるだろうけど、元からさっぱりした性格の人なのであまり違和感はなかったな。

しかしそのせいで、佐杏さんの発言が冗談ですむセクハラから冗談ですまないセクハラになっていたりなんだり。
(具体的に言うと、MW文庫版50P、電撃文庫版60Pのあれのこと)


『トリックスターズ』はこの後も引き続きメディアワークス文庫でリメイクされるようです。
このシリーズは続く『L』『D』とミステリ度が高まっていくので、興味のある人はそちらもどうぞ。
特に『D』はこれと『L』を読んでいることが前提となっているような謎ですので。

このまま同作者の『ミステリクロノ』までMW文庫でリメイクされると個人的にはとても喜ぶ。
特殊設定ミステリとしてはトリスタよりも上だと思うのに、3巻で止まってるんだものねあれ。

――――――――
感想リンク。
『ミステリクロノ』感想。
『ミステリクロノ』2巻 感想。

『星読島に星は流れた』感想。

fujimiti