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『子ひつじは迷わない』1巻~3巻 感想。

ラノベ感想
05 /31 2012
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ミステリとライトノベルが上手く融合した良作。
最新刊の5巻が出たということもあり、既刊も読み返したので感想を書きます。

ミステリの用語に『パズラー』というものがある。
これは、謎が中心となった作品のことで、徹頭徹尾、謎を解くことだけを重視した小説のことをこう呼んでいる。
読み物というより、パズルに近いということから、こう名づけられたのだろう。

『子ひつじは迷わない』は、そういった意味のパズラーとは異なった理由で『パズラー』と呼んでよい小説になっている。パズラー、すなわち、パズル小説だ。
本書の謎は、パズルのように組み合わせを変えることで答えが導きだされるものが多い。いわゆる、ロジック重視のミステリというやつだ。
そもそもにして、投稿時のタイトルが『なるたま~あるいは学園パズル』というものだった作品だ。内容がパズルに近くなるのは、当然のことなのかもしれない。

『子ひつじは迷わない』の推理スタイルは、『安楽椅子探偵型』が選ばれている。
悩み相談を受け持つ生徒会に事件が持ち込まれて、それを、探偵役が座ったままで解決するミステリ。
古くは『隅の老人』から続き、現在でも数多くの類作が出されている伝統的な作風だ。
最近、ドラマ化もされて有名になった『謎解きはディナーのあとで』もこの系譜のひとつだ。

このジャンルの特徴のひとつに『解決が正しかったどうかの扱いが軽い』というのがある。
日本の安楽椅子探偵の名作のひとつ、『退職刑事シリーズ』を読めばわかるように、探偵役が事件を解決しても最後の一行で、
「後日、それが正しかったことがわかった」
などと、そっけない文句が残されているだけ、というパターンだ。

このように、登場人物のその後に頓着せず、ただ謎を解くことだけに終始していることから、謎を中心とする作品に『パズラー』という名称が付けられたのだろう。
『子ひつじ~』の面白いところは、上記の安楽椅子探偵型ミステリと同じように、与えられた謎を解決するだけではなく、登場人物のその後の物語をきちんと完結させているところにある。

それが最も上手く扱われているのが、2巻の『VSかぐやテスト』だろう。
この話しは、謎部分もパズラー(パズル小説)として優れているが、それにもまして解決編が非常に鮮やかなものとなっている。
『VSかぐや~』では、作中でテストの問題文が登場する。『解答欄に答えを記入せよ』という、国語のテストでだれもが見たことがあるものだ。
テストは、問題文を読むだけではどうしても解決できそうもない。それでも、全問正解しなくてはならない。はて、どうしたものか? 
というのが、本作品の謎の中核となっている。解答欄には、どのような答えを記入すればいいのだろうか?

これに用意されたトリックは、ミステリ小説としての面白さを再確認できるほどの巧みな趣向が施された名品なのだが、本作の面白さはその一歩先の解決編にさらに用意されている。
すなわち、
『なぜ、このような複雑な問題を作ったのか?』
だ。少し前に語った『隅の老人』や『退職刑事』では触れられなかった、犯人の動機(ホワイダニット)について掘り下げている。

安楽椅子探偵型ミステリというのは、謎を与えられた情報だけで解決するのが特徴だ。
そのため、推測や想像の域を出ていない部分も多くなる。『退職刑事』で書いたような、そっけない解決編で終わることが多いのは、このような理由も関係しているのだろう。
『子ひつじ~』では、安楽椅子探偵の物語としてとても珍しく、解決編で犯人に直接、動機を訊ねるシーンが用意されている。
その部分が、ミステリにおける意外な動機であり、青春小説としての意外な動機のカタルシスに繋っていく。
これがあるからこそ、本書はたんなるパズル小説ではなく、ライトノベルという、キャラクター小説としての、また青春小説としての味わいが深まるようになっている。

ミステリとして探偵に事件を解決させたあとで、上記のような『なぜ、このような複雑な問題を作ったのか?』という、謎を解く上では必要にならない事柄を、ライトノベル側のオチにする。
いわば、ミステリ小説のオチを読んだあとに、またひとつ、ライトノベルのオチを味わうことができる。
こうすることで、ひと粒で二度美味しいという、ライトノベルミステリになるのだ。

この趣向は、なにも2巻だけに使われているものではない。
1巻では『VS三国志』で、『ある人の悪い噂を流す』という、悪意しか感じられない事件に意外な解決を示す。
3巻でも『VSメドレー』で、『校章が盗まれた』という事件の犯人を見つけながら、最も角の立たない解決案が提案された。

このように、それだけではパズラーにしかならない安楽椅子探偵型ミステリという形式を使い、ライトノベルという、青春小説(ラブコメ)の味付けを加えて、謎と物語の両方に深みを与えているのだ。

青春小説の中にミステリを取り入れた作品や、その逆を用いた作品ならいくらでも思いつくが、すでに形が定まっているものと思われていた安楽椅子探偵にライトノベルの良さを加えて、どちらの魅力も引き出している作品はとても珍しい。
『子ひつじは迷わない』は、ミステリとライトノベルの融合という意味合いにおいて、もっとも成功した作品のひとつに数えたとしても間違いではないだろう。

この構造が面白かっただけに、4巻では長編になってしまい、やや残念にも感じたのだが、5巻ではまた短編集(連作短編集?)に戻ってくれたので一安心。
これからも、続きが楽しみなシリーズです。

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感想リンク。
・『子ひつじは迷わない』5巻 感想。
『子ひつじは迷わない』6巻 感想。
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