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『キミとは致命的なズレがある』の感想と、サイコサスペンスの面白さについて。

ラノベ感想
10 /30 2012
キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)
(2011/05/18)
赤月 カケヤ

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第5回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作品。

表紙からわかるとおり、サイコサスペンス系のお話。
すれっからしのミステリ読みだと、読んでいるうちに結末が想像できてしまうものの、中々に面白かった。
本格ミステリに限らず、ミステリ要素のある作品だと、先が読めるというのは一種の褒め言葉です。
先が読めるということは、作者がちゃんと伏線を張って読者に犯人のことを教えているってことだもの。
文章もこなれているので、今後の作品が楽しみな人だな。

この作品に限らず、ガガガ文庫って一冊で完結する、サスペンスやミステリタッチな作品が多いような気がする。
講談社ノベルスや、その昔の富士見ミステリー文庫が好きな自分からすると、こういった作品はたまに読みたくなるので、ライトノベルレーベルで出てくれるのは喜ばしいところ。

本書の内容については、語ろうとするとネタバレになるので割愛。
なので、サイコサスペンス系の作品の面白さを、自分なりに考えてみることにした。

サイコサスペンス系の作品の面白さのひとつに、作中で展開される哲学があると思っている。
人殺しや犯罪を肯定するといった反社会的なことや、あまり他人には受け入れがたいことをうんぬんと語るものなどのことだ。
統計を取ったわけではないが、こういった哲学は主に主人公側ではなく、犯人側が語ることが多い。

ミステリでも、こういった一般的とはいえない主張をする犯人や探偵が登場する作品は、数多く存在している。
メフィスト賞作家の森博嗣や、同じ講談社ノベルス作家の京極夏彦作品も、ちょっとした主張をあーだこーだと語っているのが本の半分を占めるようなもんだしね。
ライトノベルレーベルだと、野崎まどの作品もけっこうそんな感じかな。

ミステリの魅力は数多くあるけど、探偵の魅力がそのひとつであるのは間違いない。
探偵はある種の超越者なので、上記のような犯罪者の独自の哲学を跳ね除けることが出来る。そうでなければ、作中で解決のカタルシスが得られないばかりか、謎そのものが解決できないからだろう。
作品が本格ミステリならば、探偵が犯人の哲学に敗北してしまう作品はあまりない(けっして、皆無ではないが)犯罪は犯罪であると、断じることができる。

一方、サスペンスを重視した作品だと、主人公は探偵としての能力(推理力など)が乏しいために、犯人の哲学に押されて、論破されることがある。
こうなると、もはや話の主軸は語り部たる主人公ではなく、哲学を語る犯人の方に移ってしまう。すると、物語の方向性も謎解きを中心にした本格ミステリから、徐々に離れていく。

これが、本格ミステリとサイコサスペンスの最大の違いだろう。作品の焦点を、『謎解き』にするか『哲学』にするかの違いだ。
本格ミステリとサイコサスペンスは途中の展開こそ似ているものの、結末の味わいはまったくの別物なのだろう。
サスペンスは苦味や悩みを読者に投げかけるのには適しているが、それだけでは問題は解決しない。
本格ミステリでは、サスペンスものでは割り切れなかった問題を探偵が一刀両断してくれる。
探偵は一般人とはかけ離れた人物なので、犯罪者の哲学に膝を屈することはまずないからだ。

こういった探偵の強さが、ミステリの魅力のひとつなのは間違いないだろう。
そのため、ミステリでは探偵の強さを引き立てるために、一般市民的な弱さを持った主人公をワトソン役(助手・語り部役)にするのだろう。
探偵の代名詞でもあるシャーロック・ホームズの時代からしてそのような構造になっており、現在でもあまり変わってはいない。
これは探偵の魅力を十分に見せることが出来ると同時に、その存在に謎を与えることもできる優れた設定だ。

探偵は、謎めいた存在ゆえにとても魅力的に映る。
だがそれは、見方を変えればサスペンスに登場する犯罪者の魅力にも似通ってくる。
現に、『羊たちの沈黙』のハンニバル博士は、探偵役でありながら犯罪者だ。彼の推理力によって物語は解決に進み、同時に主人公が彼の話に染まっていく。
これは、ミステリ的であると同時に、サイコサスペンス的な展開だ。事件の解決が進むにつれて、主人公の問題も深くなっていくからだ。

探偵が犯罪者の哲学に屈しないというのは、言い換えてみれば探偵もまた、独自の奇妙な哲学を持っているということに他ならない。
それが一般倫理からかけ離れなければいいのだが、一歩間違えるとハンニバル博士のようになってしまう。ハンニバル博士は、犯罪者であると同時に優れた名探偵だからだ。

探偵と犯罪者にどれくらいの共通点があるかについては、ここでは語らないでおこう。
ただ、サイコサスペンスに登場する犯人の奇妙な哲学というのは、探偵が振りかざす解決のための論理と同じような鋭い切れ味があると思っている。
それだから、自分は探偵が活躍する本格ミステリや、本書のようなサイコサスペンスが好きなのだろうな。
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