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『時槻風乃と黒い童話の夜』3巻 感想。「チラシにしておくには勿体ないほどエッセイが魅力的」

ラノベ感想
12 /28 2014


メディアワークス文庫『時槻風乃と黒い童話の夜』の3巻、読了。

電撃文庫『断章のグリム』からのスピンオフシリーズ。今回は『いばら姫』をモチーフにした長編を一本収録。
今回の話は、いままでの『時槻~』とけっこう雰囲気が違うね。
いままでのは、どこにでもいる普通の女の子たちが、ふとした事件から大きく歪んでしまう様を描いていたのだが、今回は歪みの渦中に少女が放り込まれるというものだった。

どちらかといえば、同作者の『断章のグリム』や『ノロワレ』のような雰囲気に近いね。
でも大きく違っているところは、この本がライトノベルレーベルではなく、一般レーベルから発売したということでしょうか。そのためか、展開は似通っているのに作品の雰囲気が大きくことなっているというのが面白い。

『断章のグリム』では、事件を解決できる能力を持った主人公たちがおり、ミステリやバトルアクションもののライトノベルとして苦いながらもなんとか救いを見せて物語を終わらせてくれたのに対して、こちらではただただホラー調の雰囲気のまま重苦しく物語が終わってしまう。
このあたりは、作者が意識して変えていることなのかはよくわからないけど、けっこう興味深いな。

それにしても、学人先生は人間観察が上手いなあ。
『Missing』で見せたような詩的な地の文など、甲田学人作品の魅力はいくつもある。そのひとつとして、『断章のグリム』や本シリーズで見せるような、いまにも壊れてしまいそうな不安定な家庭の状況を鮮明に描くというのがある。
その壊れていく様、壊れている様の描写がとんでもなく上手い。

テーマとしてよくある児童虐待を扱っても、ただ暴力やネグレクトを描くのではなく、それを行う人はどういう経過から虐待を行うようになったのかとか、虐待を受ける子供はどういう心境であり、なぜこの状況から抜け出せないのかなどを淡々と描いているし。

感情の振り幅を極端に小さくして、痛みや救済を求める声には目を向けず、報告書のように分析的に書いているところは非常に好みにあっている。
これはぜひとも中高生に、いや、これから親になる人全員に読んで欲しいなあ。
些細なズレっていうのはそれが本当に小さいとわかっていても、絶対に直すことが出来ないっていうことを、わかりやすく伝えてくれているんだから。

甲田学人作品シリーズのファンとしては、『断章のグリム』ではうかがい知れなかった風乃さんの内面がわかってきたのも嬉しいな。
自分の家庭が壊れていることを理解しているのだが、その中心が自分であることもまた十分に理解しているので何も出来ないと、解決策がないまま逃げることも狂うこともなくさまよい続けるというところは、『断章のグリム』を知っているといろいろと複雑だ。

こういう、本編では語られなかった人物の過去や内面がわかるところはスピンオフの魅力だよね。
(それにしても、中学生時代の雪乃さんの鬼可愛いこと鬼可愛いこと)

これを読んじゃうと、バッドエンドだらけと言われている『断章のグリム』でもまだ、救いがあふれていたのだと気づいてしまう。
白野や雪乃という、事件を解決してくれる存在や、〈泡禍〉という明確に悪と定義できるような怪現象が存在しない世界だからこそ、どれだけ問題を理解しても絶対に解決できないというあたりがとてももの悲しい。

そんな風に本編も中々に満足した出来だったものの、そのあとに読んだエッセイがすべて持っていったような気がしないでもない。
これは、新刊に入っている折込チラシに掲載されていたものだけど、とてもエッセイとは思えないほどに美しいショート・ショートだった。

子供の頃、私は牡丹雪を、小さな「針」が集まったものだと思っていた。


この一行から始まり、まったく同じ一行で終わる短いエッセイ。
子供が雪の中でたわむれているという風景が、わずか数行の文章でがらりと様変わりするところは必見。
美しいはずの光景が瞬時に死に彩られるという、学人先生の文章の美しさを存分に味わうことが出来た。

学人先生って、作品によって文体を変える人なのか、それとも単に書き急いでいるだけなのか、描写の力の入れ具合が場面によってかなり違うよな。

『時槻~』はまだ安定しているほうだけど、『断章のグリム』では日常描写はさらりと書き流し、童話のうんちくや痛みと恐怖を中心にしたサスペンス&ホラー部分は濃厚にと、一冊のうちでもかなり密度が違うし。

このエッセイで見せてくれたような美しいモノローグも書けるなど、わりと器用な作家さんだよね。
そんな文章を読んだせいか、枯れ草の匂いに微かに鉄錆を含ませたような異界の香りが漂ってきた気がするので、今日はこのへんで(行方不明フラグ)

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感想リンク。
『時槻風乃と黒い童話の夜』1巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』2巻

『断章のグリム』1巻
『断章のグリム』2巻
『断章のグリム』3、4巻
『断章のグリム』5、6巻
『断章のグリム』7巻
『断章のグリム』8,9巻

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