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ラノベ感想:『血翼王亡命譚 (1) ―祈刀のアルナ―』「第22回電撃小説大賞、銀賞受賞作。切ない結末と深みのある設定が魅力のアジア風ファンタジーボーイ・ミーツ・ガール&武侠譚」

ラノベ感想
03 /17 2016


電撃文庫、新八角著『血翼王亡命譚 (1) ―祈刀のアルナ―』読了。

第22回電撃小説大賞、銀賞受賞作。
めっちゃんこ面白いアジア風ファンタジーボーイ・ミーツ・ガール武侠譚。

紹介文ではファンタジーと書かれているけど、よくある西洋中世風のファンタジーではなく、アジア風(中華風)ファンタジーといった趣が強い。

主人公が扱う武器が片刃の刀剣(青龍刀や日本刀のようなもの)ということもその雰囲気に一役買っているが、なにより、冒頭から出てくる『言血』の設定がさらにそれっぽい雰囲気をかもし出している。

言血というのは、この世界にあるいわゆる気や魔力といった力の源のこと。
主人公は呼吸を整えて体内にある言血を力に変えるといった武侠小説みたいなことに使い、ヒロインのアルナはこの力で魔法のような奇跡を起こすことが出来る。

言血を操り動物と意思疎通を行ったり、動揺して体内の言血が乱れれば一気に弱くなるというように、中華風ファンタジーの気などの設定に慣れ親しんだ人には「あー、これだよこれ」といった満足感が得られることでしょう。

この言血の設定だけでもかなり作品に引き込まれたのだが、何より驚いたのはこの作品が本気でファンタジー世界を見せようとしていたところ。

主人公の一人称で語られる物語ということもあり、この世界における常識といった説明の数々がかなりはぶかれているのだが、言葉の端々から出てくるその世界のありようすべてがとても読者の興味を惹いてくれる。

主人公は蛇の血族であると時々語られるのだが、そもそも蛇の血族とはどういうものかという説明がほとんど出てこない。
アルナには言葉を喋る鳥のスゥがついているのだが、見た目が鳥そのままの彼らがその昔は人間をも凌駕する刀鍛冶だったという設定もまたほのめかされるだけで終わる。

サブヒロインは猫の血が混ざっているせいで猫耳を生やしており、ようやくわかりやすい設定が出てきたと思ったら純血の猫の種族は体を持たない存在であるといきなり説明されるなど、突然出てくる重要そうな設定の数々には面食らいながらも酔いしれることしか出来ない。

中でも自分が一番驚いたのは、本当にごくあっさりと語られる彼らの出生の秘密。
ネタバレというには軽すぎる扱いだったので、そのまま引用してみよう。

167Pより引用

「でも人間は泉がないと子供をつくれないのよ。犬とかとは違って、お腹に子供を宿せないし」
 確かに人間が泉を使う理由の中心はそれだろう。壷に泉から汲んだ言血を溜めて、親が血を注ぎ十月十日、その間何度も声をかけて言血を混ぜ込むことで子供は生まれる。泉がなければ、あっという間に人間はいなくなるに違いない。



これを読んだときは「え、そんなにあっさりと紹介していい設定なのこれ!?」と心の底から驚いたもの。
普通の小説ならば、下手したら事の真相やら世界の秘密レベルで隠すべき設定なのに、この作品ではそれがまるで魚の捕まえ方でも説明するかのようにごく当たり前のこととして紹介されている。

深みのある設定を背景にして王道ながらも寂しさと希望を見せてくれた結末など、じつに好みと合致する作品だった。
こういう作品と出会えるから、新人賞受賞作は読み落とすことが出来ないんだよな。

――――
感想リンク。
『滅びの季節に《花》と《獣》は』(上巻)
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