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ラノベ感想:『図書迷宮』「本による一人称形式を用いたMF文庫J新人賞拾い上げ作品。面白い部分とそうではない部分がはっきりとわかれているので人を選ぶが熱さと勢いだけは本物」

ラノベ感想
11 /26 2017

MF文庫J、十字静著『図書迷宮』読了。

第10回MF文庫Jライトノベル新人賞の拾い上げ作品。
ちなみに次の同賞は第14回なので、出版までに実に三年近く掛かった模様。

あー、うん。なるほど。これは確かに拾い上げ出版だ。
とてつもなく魅力的な部分とそうではない部分がはっきりと分かれている。

ネタとしてはとても魅力的。
八時間しか記憶できない主人公と、その失われた記憶を補完するために書かれている本。

「あなた」という人称を用いることでその本は読者が今手にしている本としても受け取れるというメタ手法など、設定だけでワクワクしてくる。

なお、あとがきや書評などでこの作品は二人称形式だと書かれているが、厳密に言えばそれは違う。
語り部は本であり、「あなた」と語りかける相手は読者であると同時に本の目の前で行動している主人公である。

そのため、これは「無機物による一人称形式」が正しい。
この手法は過去にも宮部みゆき氏の『長い長い殺人』(財布による一人称)などがあり、他にも似たようなものを読んだ覚えがある。
(ちなみに、「あなた」と読者に語り掛けるスタイルの二人称はレイ・ブラッドベリの短編『夜』などがある)


閑話休題。
肝心の内容なんだけど、これが実に色々と惜しい。

主人公の記憶が完全に消える前に、つまり本を読み終える前に問題を解決しなければならないというタイムリミット。

本に文章を追加することで主人公の知識を増強するチート能力など魅力的な設定を利用した展開を用意しているものの、根本的には普通のバトルアクション&ボーイミーツガールものにしかなっていない。

主人公とヒロインのやり取り、サブヒロインの勘違い、魔法学校にと新鮮味はほとんどなしでこれが実にもったいなかった。

このあたりは王道といえば王道であり好みが別れる部分なので置いておくとしても、設定の粗が目立つのも気になった。
特に「本に書き込む」設定は納得しかねる部分が多い。

本に「授業内容をすべて身につけている」と書き込んで知識を得るのは良し。
だが、そこから既述を省略するために今後授業描写はカットすると言わせる(99P)のはNG。

それが許されるのならば戦闘シーンやラブコメなど不必要なシーンもすべてカットできてしまう。
主人公に今までの行動を教えるための記述ならば「あなたは戦い、勝ちました」でも通用する。

カットの取捨選択はどうやって決めているのか? 
と、いらんところが気になってしまった。

また、主人公の身体能力は増強できないのに白兵戦能力を上昇させられる(119P)など、反射神経を操作できる部分もかなりグレーゾーン。

個人的にはこれくらいは許せるのだが、それでも、説明を加えてしまったために立ち止まって考える余地が生まれてしまったのはちょいと残念。

このあたりの設定がかなりひっかかったものの、一番気になったのはページ数。
上記のように冗長な部分が多々あるために、もう少し削れなかったのか? と首をかしげることしばしば。

ライトノベルはそのページ数の短さによるスピード感も売りの一つである(無論、長くて面白いものもあるが)と思っているので、本書もまた設定に固執してページを増やすよりはもう少し削って欲しいと思ったのが事実。

設定上、「本に書き込む」ことと「この本の分厚さ」のどちらにも理由があるとはいえ、長時間小説を読むのがつらくなっているおっさんとしてはちょいと厳しいものがあった。


とまあ、万人にオススメすることは難しいんだけど、細部は本当に魅力的。

後半に待ち受ける怒涛の展開から、ネタバレなしでは何も語れなくなるような落としどころ。
作者が最後まで読者を楽しませようとしている心意気などどこまでも好みなんだけど、やはり、どうしてもいまひとつな部分が目立ってしまう。

基本的には面白い部分を評価するブログであるものの、やはり惜しかったという印象が付きまとったな。
欠点なんかどうでもいいから脳みそがギュンギュンに加速できる新人賞作品を読みたいんだ! 
という人にはオススメできる一冊ですね。
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