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ラノベ感想:『タタの魔法使い』「第24回電撃小説大賞、大賞受賞作。500名弱の高校生たちがどのようにして帰還したのかをドキュメンタリー形式で描く集団異世界転移もの」

ラノベ感想
03 /17 2018

第24回電撃小説大賞、大賞受賞作『タタの魔法使い』読了。
なるほど。これはたしかに大賞受賞するのもわかる。
面白さもそうだけどその斬新さが評価されたんだと思う。

これはあれだね。ライトノベルの新人賞で時々見かける
「ライトノベルじゃない文法でライトノベルを書こうとした」作品。

公式サイトのインタビューで「従軍記を参考にした」とあるけど、まさにそれ。
学校がまるごと異世界へと転移してしまい、元の世界に戻るために費やされた30日間の冒険を生存者に取材し、彼らの身に起きた出来事をドキュメンタリー形式で綴っていく……と、ノンフィクション調の筆致で書かれている。

この手のドキュメンタリー形式の本を読んだことがある人ならわかるけど、やってることはまんまノンフィクションもののそれ。

ある人は冒頭から後に故人になることが示されていたり、「この行動が生死を分けることとなった」と分岐点を示し、さらには「この判断は後に多くの批判にさらされる」などルポ形式の記述を用いることで作品に妙なリアリティを与えているところが面白い。


序盤の物語への引き込み方もとても上手い。
「実際に現代日本の高校生が数百人単位で異世界に行ったらどうなるか?」のシミュレーションは中々に読み応えがあった。

食料の問題などは異世界チート能力で解決するものの、細部については作者が真剣に考察しようとしているのがよくわかる。
たとえば追っ手から逃げる場面でも、
 

誰かが背負うか担架に乗せなければならない者が5名程度、補助がなければ自力での歩行が困難な者10名。
 15名の移動を助けるために30名の補助が必要であり、これは実質的に45人が移動困難であったことを意味する。
 約8人に1人が移動困難という状況であれば、負傷者のいない一年A組から他クラスが遅れるのは当然であった。



と、怪我人がいると行軍が遅れるといった状況説明が的確なので危機感がひしひしと伝わってくる。


現代日本の教育水準の高さを描いているのもポイントが高い。
転移した場所は魔法こそあれど中世ヨーロッパ風の世界。ならば、そこに住む人たちと現代日本に住まう彼らでは体格が違うのは当然のこと。

およそ現代日本の高校生ほど栄養状態が優れ、体育の時間や部活動で体が鍛えられ、即座に団体行動が取れる集団は存在しないと、現代教育は異世界の軍隊と比べても遜色のないものとするなど比較・検証の書き方はとても丁寧なものを感じた。
(もっとも、このような衒学趣味の中には自分の知識だけでも間違っていると思われる箇所が見受けられたので鵜呑みにするのはいただけないが)

異世界ものとリアリティを両立させようとしたせいでよく考えると設定につじつまが合わない部分もあったが、
(異世界は低重力で酸素濃度が濃かったのかもしれないとあるのに終盤では普通に高山病が出るなど)
それでも、この記述方式で最後までライトノベルを書こうとしたのは素直に褒めたい。

オチがあんな感じなので続けようと思えば続けられるだろうけど、続けたらどう考えてもマンネリになるのでこれは1冊で完結したほうが良いと思う作品だったな。
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