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『ミステリクロノ』2巻 感想。

ラノベ感想
06 /10 2012


電撃文庫、久住四季著『ミステリクロノⅡ』

SF設定が使用される、ライトノベルミステリの第2巻。
1巻よりもSF要素が弱くなったとはいえ、設定を上手く使って青春(?)ミステリとしての完成度が高まったという印象。

本作で登場するクロノグラフ(時間を操る道具)は『メメント』
これは『対象の記憶を最大で一年間消すことができる』というものだ。
効果としては、1巻で登場したリザレクターの下位互換でしかないように思えるが、そのぶん期間が長くなっている。
この『メメント』を使って『記憶を消せたらどうする?』が上手くホワイダニットとして機能していた。

1巻の感想でも語ったのことが、本書のような異能力を扱ったミステリの場合、犯人の動機(ホワイダニット)がとても重要になってくる。
本書では倒叙もの(犯人が最初にわかっているミステリ)というスタイルが扱われているので、やはり犯人捜し(フーダニット)よりも、ホワイダニットが重視されていた。

謎にたどり着くプロセスとしては、ごく真っ当な素人探偵もの。足を使っての調査と、ロジックによる犯人捜し。
行動し、情報を集め、足を止めて考える。
久住四季おなじみの、スタンダートにして美しいミステリのスタイルとなっている。

ミステリゆえに、細かい感想を書こうとするとどうしてもネタバレになるので、折りたたみます。

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感想リンク。
『ミステリクロノ』感想。

『星読島に星は流れた』感想。
『トリックスターズ(MW文庫版)』感想。
(※ 『ミステリクロノⅡ』のネタバレが含まれているので注意。 ※)

謎解き部分としては、フーダニットに見せかけたホワイダニットにして、さらなるフーダニットがあったという構成になっている。
上の感想では、ホワイダニットのほうが重視されていると書いた。それ自体は間違いでも嘘でもない。倒叙ものであるゆえに、実行犯は判明しているからだ。

ただ、その犯人に、ある仕掛けがしてあるのと同時に、
『なぜ、被害者はそのような行動を取ったのか?』
というホワイダニットが発端となっているのがポイント。
その動機から一転、裏に潜んでいた重々しい理由が判明し、意外な犯人へと繋がっていくのが見事。

『記憶』という、本来なら消すことのできないものを扱うことにより、登場人物たちのすべての行動が、動機(記憶を消すことによって得られる利益)に収束していくさまは、伏線の面白さを再確認できる良い味になっている。

さらに、ラストの推理以降の展開が非常に鮮やか。
いままでの推理は、探偵役がすべて頭の中で作り上げたものだ。それが事実かどうか、確かめるすべはない。
これがもし、記憶喪失などといったSF設定を使っていないミステリだとすれば、その推理の正しさについては確認されないで終わることもあるだろう。
実際、安楽イス探偵だと想像だけで終わり、事実を確認しないことも多い。

ところが、本書の場合はクロノグラフの効果をリセットする『リ・トリガー』を扱うことによって、探偵は被害者に直接、事実確認をすることができるのだ。
探偵役は、確認しようとすれば、いつでも事実を調べることができる。
それによって、巻き込まれた被害者たちの心を無視してでも、真相を白日の下に暴けるのだ。

この、事実に接近する探偵の悩みが見事。
ミステリでも、
『真相をどこまで暴くべきか?』
と、悩む探偵を出す作品はあるけど、本書では主人公が素人探偵であることに加えて、被害者がある程度の幸せを確保できたところに注目しなければならない。

もし、『メメント』の効果を消して真相を暴いてしまったら、この幸せすべてが水泡に帰すのではないか? 
下手をすれば、もう一度誰かに『メメント』を使われて、さらなる悲劇が生まれるのではないか?
はたして、真相を暴くことによって被害者の傷をえぐってもいいのだろうか。
これら悩みに押しつぶされそうになり、そこから派生した誘惑へと続くラストシーンは圧巻。
『時間』というテーマを取り扱うと、作品は人間の内面に近づくことが多いが、『ミステリクロノ』もそれにたがわず、見事に犯人の動機と探偵の悩みを描いていた。

便利すぎる道具を手に入れたとき、人の楽な道を選びたがる。
おそらく、そういった道具と関わったことによる不幸というのも、本書のテーマのひとつなのだろう。
それゆえに、人間味がまったくない真里亜という天使をヒロインにしたのだと思われる。それは、1巻で当然のごとく記憶を消していた姿からも垣間見ることができる。

その真里亜は、2巻時点ではクロノグラフを使わないと約束している。
1巻では、天使というのは、道具を使って時間をまきもどすことに躊躇がないゆえに、人間味がないと言われていた。
しかし、よく考えれば、人間らしくあろうとすればするほど、時間を操るという誘惑に抗えなくなっていくはずだ。それが、ごく普通の人間だ。

クロノグラフを日常的に使うことが人間離れしているというのならば、逃げたい現実に遭遇したときに道具に頼るのもまた人間だ。
はたして、真里亜がどこまで時間を操るという誘惑から目をそむけることが出来るか。
どこまで、人間味を持てるようになり、天使の考えではなく、人間として当たり前の感情でクロノグラフを使いたいと願うようになるのか。
その行く末も、本書の見所のひとつだと思っていたのだが、3巻で刊行がストップしているんだよなあ。

とても面白いミステリだと思っているので、いつの日か続きが読みたいものです
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