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『なつのロケット』あさりよしとお

まんが感想
08 /21 2012
なつのロケット (Jets comics)なつのロケット (Jets comics)
(2001/07)
あさり よしとお

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夏といえばこれと『イリヤの空、UFOの夏』がマイフェイバリット。
ロケットものの傑作漫画『なつのロケット』の紹介です。

ここ数年は、はやぶさやら『宇宙兄弟』やらで宇宙への感心が高まっている。
昔からSFで宇宙を目指す作品は多いけど、その中にはロケットに注目した作品がいくつかあった。

高校の同級生が社会人になってから集まり、ロケットを作る小説『夏のロケット』
仕事を捨て家族を巻き込み、周囲の嘲笑と反対を乗り越えてロケットを作る映画『庭から昇ったロケット雲』
現実の地球とは少し違う世界を舞台にして宇宙開発を描くアニメ映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』
テレビアニメでも、『プラネテス』や『シゴフミ』で、個人でロケットを作ろうとする話があった。
ロケットはそれほどまでに、人をひきつけてやまない存在なのだろう。

この『なつのロケット』も、それらの作品と同じようにロケットを作るのだが、既存作品とアプローチを変えることで特色を持ち、より洗練されたお話となっている。

そのアプローチとは、『世界最小のロケット』だ。
直径36センチ。全長3メートル。重量200キロの、可能な限り小型化に成功したロケット。

無論、ロケットというだけならばペットボトルロケットも同じ『ロケット』なのだが、この小型ロケットは、液体燃料や姿勢制御用のジャイロを搭載して、本物のロケットの完全なミニチュア化に成功している。

決して人は乗ることはできないが、ある定義づけをすることによって、それはたしかに『ロケット』となる。
このような、『できるかもしれない』という、半径百メートルな設定でロケットを作るのが、小学生五人と技術者の爺さん。
はじめはふたつのチームに分かれていたのだが、しだいにひとつの目的のために力をあわせるようになっていく、とジュブナイル好きならワクワクしないはずがない設定だろう。

この作品の優れているところは、上記のようなロケット作りの過程や、設定の綿密さも確かにあるのだが、それよりも何よりも登場人物のやりとり。
これがもう、途方もなく素晴らしいので、引用で紹介します。

『なつのロケット』70Pより引用。

「おまえのロケットは形だけだろ」
「それに 他人の為って態度も気に入らないね」
「どうせ打ち上げに失敗しても努力賞…」
「『こんなにがんばったんだから僕のことほめてー』…なんて、ヌルい事 考えてたんだろ」
「飛ばなくてもいいなんて考えて作ったロケットが飛ぶもんか!!」
「要は結果だ! 俺は飛ぶようにしか作っていない!!」
「過程なんて 何の意味もないのさ」
「『努力した』なんてのは 卑怯者の言い訳だ」
「だから俺は必要なことしかやらない」
「逆に必要な事なら 何だってやってやる!!」


このように、本気と遊びの違いを、『真剣さ』とはどういうことなのかを、非常に辛辣な言葉で書いている。
本気になるのなら、なんでもする。なあなあで満足してしまうのは、それだけ全力じゃないということだ。
甘美な成功の喜びだけではなく、熱中するものがないことや、全力を出したときにも失敗が待ち受けているという青春の苦さがまた絶妙なあんばいとなり、作品の質を向上させている。

単行本一冊というほどよい長さということもあり、胸を張ってどの世代にもオススメできるロケットもの&青春ものの傑作ですね。
夏が暑いうちに、ぜひどうぞ。

以下、ネタバレありの感想なので折りたたみます。
本作が、設定のみならず漫画としても非常に上手いということの紹介です。
設定や展開もさることながら、本作は漫画という媒体を使い、非常に巧みに『ほのめかし』を描いている。

転校生の三浦は、なぜロケットの開発を急いでいたのか?
なぜ、無菌室に使うための液体酸素を用意することが出来たのか?
なぜ、後半はまったく登場しなくなったのか?

それらをあわせると、どうしても病気と結びつけてしまうのだが、作中ではすべてほのめかすだけに止められている。
三浦がどうなったのかも語られず、主人公の北山がそのことに気付き始めたとき、彼らがいったい何を考えていたのかなどの内面はほとんど描かれずに終わる。

このあたりの心理描写を、モノローグではなく画面で見せるのは本当に上手い。
小説は内面描写を描くことに特化しているものの、逆に言えば登場人物がそういった不穏な影に直面したときに、どう思っているのかも書かなければいけなくなる。
絵があるからこそ、それをほのめかしの段階で止めておくことが出来たのだ。

『なつのロケット』は、漫画という内面描写を描けないといった制約を活かし、三浦が急いでロケットを作らなければならない理由を書かずに終える。
彼が何を悩んでいたのか、なぜそこまで真剣なのか、失敗がどれだけ悔しかったのかを、最後の最後まで隠し切った。
これは、漫画や映画などの媒体だからこそ効果的に描けた演出だよなあと、感嘆するしだいです。
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