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城平京『虚構推理』感想。「事実を真実で塗りつぶす快感」

ミステリ・SF感想
10 /02 2012
虚構推理 鋼人七瀬 (講談社ノベルス)虚構推理 鋼人七瀬 (講談社ノベルス)
(2011/05/10)
城平 京

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(※ 『虚構推理』のネタバレがやや含まれているので、読んでいない方はご注意ください。 ※)

第12回本格ミステリ大賞を受賞した作品。うん、面白い。
あまりミステリを読んでいない人でも楽しめるようなインパクトと、ミステリマニアにも楽しめる構造を兼ね備えた内容だった。

本書がなぜ面白いのかを、出来る範囲で説明してみる。
この作品は超常現象を取り扱った変り種のミステリに思えるが、その実、ミステリの王道のひとつである『真実で事実を塗りつぶす』という手法を真っ正直に行っている作品だ。

ミステリにおいて、事実というのは非常に厄介なものだ。
探偵が語る真相は本当に正しいかどうか定かではなく、事件には続きがあるのかもしれないし、真犯人はまだ警察の目をかいくぐっているのかもしれない。
探偵が知らない場所で、事件は完全犯罪になってしまったのかもしれないという問題。これはすでに、数多くのミステリで書かれている題材だ。
ミステリに詳しくない人でも、後期クイーン問題という言葉をちょっと調べてもらえれば、なんとなく理解できるだろう。
誤解を承知で端的に説明すると、『事件にはさらなる真相があるかもしれないよ』という問題のことだ。
まずは、このことを覚えておいて欲しい。

このテーマをよく扱う作家といえば、麻耶雄嵩が真っ先に思いつく。
事件にはいくらでも続きがありそうだが、最後には読者が納得のいく(あるいは、すべてを放り投げるような)オチを用意する作家だ。
後期クイーン問題を題材にして書かれた『隻眼の少女』は名作ですよね。

閑話休題。

この『真実で事実を塗りつぶす』というのは、そこまで難しいことではない。
なにも、法廷サスペンスで被告人を有罪にするか無罪にするかなどということではなく、日常に即した謎の中にも、この手のミステリは多く存在しているからだ。

面白さの肝の部分ではないので書くが、2012年にアニメ化もされた『古典部』シリーズ(アニメ版タイトルは『氷菓』)の1エピソードである『手づくりチョコレート事件』も、この手法が使われている。
本ミステリのロジックは、以下のような筋道を辿り、真実を作り出した。

(1):容疑者は三人。
(2):そのうち、ふたりは衣服の中に物を隠すことができなかった。
(3):よって、残ったひとりが犯人である。

これで表向きには事件は解決した。
推理を聞いていた千反田えるにとっては、これが『真実』になりえたが、『事実』はまったくの別物だった。
千反田は後に真相を聞かなければ、この『真実』を『事実』と誤認したままだったはずだ。千反田の中では、探偵役が語った上記の『真実』が、一時的ながら『事実』を塗りつぶしてしまったのだ。
このような『事実と真実』の違いは、同じく『氷菓』の1エピソードである『連峰は晴れているか』でも扱われている。

このように、ミステリにおいて事実と真実は、まったくの別物として扱われている。
事実が動かせないものであることは間違いないが、それが真実によって覆い隠されることもあるのだ。
言ってみれば、安楽椅子探偵によって、依頼人だけが納得して真相を確かめなかったミステリというのは、すべてこの『真実で事実を塗り潰す』という手法が使われているのだ。

話を『虚構推理』に戻そう。
この作品は、開始早々から事件の真相が解明されてしまう。
被害者が死んだ時のことが見えるという超常現象を取り扱い、死の瞬間のまぎれもない『事実』が、探偵にも読者にもわかってしまうのだ。

ところが、事件は終わらない。
『事実』はわかれども、世間に広がった『真実』、都市伝説の『鋼人七瀬』がさらなる超常現象が引き起こし、人に危害を加えてしまう。
この超常現象を消すためには、世間にある『真実』を、別の『真実』で塗りつぶすしかない。
それによって、都市伝説を探偵にとって都合の良い話にすり替えるのだ。

『虚構推理』の面白いところは、この『真実』の塗りつぶしあいに、ネットと超常現象を利用しているところだ。
チャットを使い、リアルタイムで新しい『真実』を構築し、それが世間に浸透したのなら、超常現象は収まる。
目の前にいる、『鋼人七瀬』という超常現象が止まることによって、探偵も読者も、『真実』が世間に浸透したことを目の当たりにできる。
従来のミステリでは表現することが難しかった、真実が受け入れられた瞬間を、誰の目にもわかりやすく提示したのだ。
これぞまさに、『真実が事実を塗りつぶした』瞬間だ。

やっていることは王道ミステリそのままなのに、手法に捻りを加えているのは面白いね。
この年の本格ミステリ大賞は、他の候補作である『キングを探せ』(⇒感想リンク)や、『メルカトルかく語りき』など、好みの作品が多かったです。
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fujimiti