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『鳥葬 -まだ人間じゃない- 』感想。

ラノベ感想
08 /16 2013


ガガガ文庫が放つ異彩、江波光則先生の作品、『鳥葬』。
むしろガガガ文庫自体が異彩とかは、別に言ってもいい。

この人の作品は、青春『傍観』小説というのがピッタリだよなあ。
過去の作品でも、いじめやら何やらを題材にし、主人公は問題を解決するにはするんだけど、基本的なスタンスは傍観だった。

今回も、SNSを題材にしてひとつの終わってしまった青春を傍観している。
何もしないし、何もできなかった、というあたりがじつに重苦しい。


毎度のことながら、ひとつの大きな事件が中心になるんだけど、見せ方が変わっているよね。
作品(主人公)の目的は『事件を解明する』ことなのだが、物語の中心は『彼(ら)は何を考えているのか』、というところに置かれている。

一般的な展開だと、自分が関わっている事件なんだから解決に躍起になるはずなのに、どいつもこいつも一歩引いたような感じで事件を眺めている。

主人公の陵司は、もしかしたら自分の命が狙われているかもしれないのに、殺されることへの恐怖はほとんど描写されていない。
過去に起きた事件と過ちと、その結果変わってしまったものに目を向けているというところがなんともかんとも。

客観視している、といえばいいのだろうか。
ジャンルはまったく違うのだが、同じガガガ文庫の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』でも、主人公は自らの行動や周囲の状況を、自分を含めて客観的に分析している。

この『鳥葬』でも同じことで、当事者なのにどこか他人事のように分析しているところが面白い。
とくに、被害者遺族に謝罪しにいく場面が圧巻。

『鳥葬』164Pからの引用。

 俺の髪は不愉快だが偽っていない、と言われた。
 例えば俺が、詫びたいと思ってここに来たのなら、こんな髪にはしていない。黒く染めるか丸坊主にでもしてくる。分かりやすい〝反省と謝罪〟の形にしてここに来ていた。それは分かりやすく不快にさせない形だけれど、故に嘘である。
 俺が何も考えずにここに来たのは不愉快だけれど真実の姿だ。
 どちらが正しいのだろう、とも思う。


こうやって、とことんまで客観に徹した文章はいいねえ。
じつに、文学文学している。


『ペイルライダー』でも見せていたけど、またもやネット批評家批評が出てくるところも面白い。

ブログに感想をアップする人間は、こういうことを考えているのだろう。
SNSで書き込みをするのは、こういう目的のためか。

とまあ、いろいろと分析してくれますとも。
『ペイルライダー』では、たんなるフレーバーでしかなかったネット関係の考察が、今回はより作品と密接に関わるようになっていたね。

実際に的に当てられた人には耳が痛い話であり、ネットでのあれこれが理解出来ない人には、ひとつの指針になる文章でしょう。

このSNSの話から、主人公の持論である、
『小説とは、嘘を前提にして本当の事を織り混ぜていく編み物みたいな物』
が物語に結びついていくのは上手いねえ。それは、SNSへの書き込みだって同じこと。

この、捻くれながらもじつに活き活きしている登場人物たちの描写は、毎度ながらお見事。
登場人物がわずか五人ちょっとなのに、最後の最後までぐいぐいと読ませてくれるんだから。

過去の作品ほどの衝撃はないものの、読後感は妙に爽やかなので江波作品の入門編としてはいいかもしれません。


江波光則先生は、9月にもガガガ文庫で『密葬』を発表するそうなので、そちらも楽しみにしています。
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感想リンク。
『ストレンジボイス』
『パニッシュメント』
『ペイルライダー』
『ボーパルバニー』
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