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青崎有吾『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』感想。「今回はクイーンというよりもホームズか」

ミステリ・SF感想
06 /28 2014


青崎有吾著『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』読了。
『体育館の殺人』『水族館の殺人』に続く、裏染天馬を主人公にしたミステリの第三弾。

今回は日常の謎、いわゆる日ミスがメインの短編集。 
短編集ということもあり、裏染のオタネタがほとんどなかったのがちょっと残念。
なんだかんだで、あの小ネタは好きです。

今回はプロファイリングが多めだったので、平成のクイーンつうよりはホームズだったかな。
日ミス短編集はそこまで好みではないのだが、そこは青崎有吾。日ミスなのにフーダニットを重視した作品にするなど、ロジック偏重な事件を用意してくれていてちゃんと楽しませてくれた。

以下、個別感想。
面白かったのは『もう一色選べる丼』と『その花瓶にご注意を』かな?
ネタバレは避けているものの、ほぼ既読者向けの感想です。


●『もう一色選べる丼』
フーダニットメインのためか、今回の短編集の中で一番殺人事件っぽかったな。
裏染が気づいた『箸の不在』という状況から成り立つ(ネタバレのため伏字)箸のアリバイ工作(伏字終了)というあたりは、なかなかに好み。
日ミスなれど、やっていることは殺人事件における現場調査、そして同じようなトリックというあたりがじつに青崎作品らしい。

安楽椅子探偵ものでよく見られる論理のアクロバットには欠けるものの、不可思議な現場の状況をロジックでピタリとピントを合わせてくれる手腕はやっぱり好みだなあ。
青崎作品は、こういう切れ味を求めていたので、これはけっこう満足。

でも、裏染が読んでいた、
「髪がボサボサで眼鏡をかけた中年のお父さんが、少女マンガチックなキャラクターを巻き込んで暴れ回わっている」
漫画の元ネタがわからない。

そのあとに「マリネラの国王みたいなギャグ」と言っているので『パタリロ』のタマネギ部隊かとも思ったけど、「中年のお父さん」ではないだろうから違うと思うし。
うーん、なんだろう。


●『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』
タイトルからわかるとおり、『競作五十円玉二十枚の謎』めいた日ミス。
あちらは五十円玉二十枚を千円札に両替してくれという、驚くべき未解決な実話ミステリなのだが、こちらはお釣りがすべて五十円玉というあたり謎はやや弱め。
(というか、本家の謎がわけわかめすぎるんだけど)

安楽椅子探偵ものの日ミスを読みなれているからか、当事者に直接訪ねる裏染の行動にはちょっと笑った。ですよねー。
笑いはしたものの、そうやって探偵や関係者が動いてヒントを集める場面が多いので、ミステリとしての切れ味は弱めだったかな。

肝心の真相についても、ホワイダニットについては労力と見返りがつりあっていると思うので問題ないのだが、そこに至るまでのヒントが微妙。

断片的な情報から推理を組み立てるという、『九マイルは遠すぎる』などでもお馴染みの手法によって真相にたどり着くのだが、本作のはちょっと情報の取捨選択が作者の都合どおりになりすぎているからな。

『九マイルが遠すぎる』などに代表される推論の面白さは、文章が意味をなしている場合や、その場に不釣合いな言葉が用いられている状況から意外な推理を引っ張りだすところにあると思っているので、個人的にはいまひとつ。

ちなみに、前者は『心あたりのある者は』(米澤穂信著『遠まわりする雛』収録)などが該当し、
(『十月三十一日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい』と完全に文章になっている)

後者は『頭蓋骨のなかで』(森晶麿著『黒猫の遊歩あるいは美術講義』収録)などが該当する作品となっている。
(『頭蓋骨でも見つけないと』という不穏当な言葉が用いられている)

終盤でイカ焼きが出た瞬間に『侵略!イカ娘』ネタが来るだろうとは思っていたけど、予想通りやってくれてニヤリ。ですよねー。


●『針宮理恵子のサードインパクト』
謎そのものは普通の日ミスなのに、見せ方が変わっていたところが興味深い。
日ミスによくある『犯人からすれば謎でもなんでもない』を『依頼人からすれば謎でもなんでもない』という風にして謎のパターンを変えたのか。

日ミス読者ならば、『犯人からすれば合理的な行動だが、周囲の人物からは謎にしか思えない』という状況の作品にはいくつも心当たりがあることでしょう。

有名なところでは、北村薫氏による『砂糖合戦』(『空飛ぶ馬』収録)が該当する。
その作品では、
「なぜ、彼女たちは一杯の紅茶に七杯も八杯も砂糖を入れたのか」
という謎があった。

これは見ている側からすれば疑問だが犯人からすれば仕方なくそうしていただけという謎であり、いわば、目撃者と犯人の間に(それどころか、目撃者同士の間にも)謎に対する温度差があるというものだった。

この温度差こそが日ミスの醍醐味だと思うのだが、そういった温度差の対象を犯人ではなく依頼者にし、解決と同時に読者に謎の中心を見せるという手腕がじつに鮮やか。
いじめにしか思えなかった状況から、さらりと日常の謎に模様が変わる場面はお見事としか言いようがない。
こういった亜種の誕生を目撃できるのは面白いな。だからミステリは止められない。

ちなみに、冒頭で針宮が読んでいた漫画は『寄生獣』だろうね。実際に4巻を調べてみたので、これは間違いなし。
どうでもいいけど、なんでこのキャラクターは声優の釘宮理恵の名前をもじってんだろう。
この作者のことだから、彼女のことを知らないなんてことは絶対ないだろうし。


●『天使たちの残暑見舞い』
まあ、『マリみて』ネタは当然ですよねって感じで。
オチの、
(ネタバレのため伏字)避難訓練ではしご車が来る(伏字終了)
というのが一般的なのかどうかわからないので、個人的にはペケ。


●『その花瓶にご注意を』
ロジカルなフーダニットという意味では、今回の短編集では一番だったかな?

「なぜ、花瓶が割れた音が聞こえなかったのか」
「なぜ、犯人は水道に向かわずに自販機で水を購入したのか」

など、小粒なれどロジカルに容疑者を一人に限定するところはなかなか。
そうやって「花瓶の破壊」という謎がとある犯罪にまで発展するところなど、日ミスとして好みな形だった。

余談だけど、「年下の妹キャラが学校ではお姉さま」という裏染妹の立場について、当の本人が完全にスルーしたのはちょっと肩透かしを食らったな。

百合ライトノベルの金字塔である『マリア様がみてる』の主人公である祐巳は最下級生なのに家ではお姉ちゃんという設定があるだけに、百合好きの彼女にはこの突っ込みについて言及してほしかったな。

それ以外にも、『とある魔術の禁書目録』に登場する御坂美琴も本作品では年齢的に年下ヒロインなのに、スピンオフシリーズである『とある科学の超電磁砲』ではお姉さまキャラとして定着している上に、白井黒子という年下の百合っ子までいるのにね。


●『世界一居心地の悪いサウナ』
感想そのものがネタバレになるので省略。

ある人物が口にした「第二期二十話の文化祭話」ってのは『けいおん!』のことだね。
○○(ネタバレのため伏字)よ。その話だけは評価できるというあたり、あなたもかなりのミーハーです。

それにしても、裏染が中学時代に『けいおん!』を見ていたということは、作品の年代がある程度特定できそうだと思わなくもない。

まあ、こういうネタに突っ込むのは野暮だと思うけど。
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』でも、作中にたびたび登場する『プリキュア』ネタがどんどん新しいシリーズになっていることだし、火村英生だって歳をとらないんだから気にしちゃいけません。


感想終わり。
ミステリとしてはここ最近の新人作家でも一番好きな方なので、次の作品も楽しみです。

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感想リンク。
青崎有吾:『体育館の殺人』
青崎有吾:『体育館の殺人』元ネタまとめ。
青崎有吾:『水族館の殺人』
青崎有吾:『水族館の殺人』 元ネタまとめ

『アンデッドガール マーダーファルス』


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