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『時槻風乃と黒い童話の夜』感想。「電撃文庫の『断章のグリム』からスピンオフしたメルヘンホラー」

ラノベ感想
08 /02 2014


夏といえば怖い話。というわけで、積んでいた甲田学人著『時槻風乃と黒い童話の夜』を読む。

電撃文庫の『断章のグリム』のスピンオフであり、ヒロインである時槻雪乃の姉である風乃を主人公としたホラー(メルヘン)短編集。
甲田学人作品は久しぶりに読むけど、やっぱり面白いなあ。
もともと『断章のグリム』はかなり好きなシリーズだったけど、こちらもけっこう好み。

『断章~』とは同じ世界設定の作品だけど、そちらであったようなライトノベル的異能力バトルやミステリ的な謎解き要素をなくし、ただただ童話をモチーフにしたホラーに終始している作品。

『断章~』では怪奇現象の理由に〈泡禍〉というものが登場したり、それに対処する〈騎士団〉みたいな組織があるんだけど、こちらではそういった要素どころか超常現象自体まったく出番なし。
複雑な家庭環境のせいで少女たちが狂気に陥ったという、純粋なサイコスリラーとして楽しめるようになっている。

この違い、映画好きの方には『シャイニング』の映画版と原作版の違いみたいなものと言えばわかりやすいでしょうか。
原作だと明確に超常現象だと説明されるものの、映画ではギリギリのラインで現実の世界に踏みとどまっているというあれです。

『断章のグリム』といえば、作者の豊富な知識による衒学趣味と童話の新解釈が魅力のひとつではあるけれど、この本でもそれが申し分なく発揮されていた。
今回題材となるのは、『シンデレラ』『ヘンゼルとグレーテル』『金の卵をうむめんどり』の三本。
このうち、『金の卵をうむめんどり』は『断章のグリム』7巻に掲載されたもののリライト版だが、他二本は書き下ろし。

注目すべきは、『シンデレラ』でしょうか。
これは、『断章のグリム』第1巻でも題材にされた童話ではあるものの、向こうは『灰かぶり』でこちらは『シンデレラ』
この微妙なれど大きな違いは見逃せないでしょう。

『断章のグリム』の内容を覚えている方ならば、童話の『灰かぶり』にはガラスの靴もかぼちゃの馬車も登場しないということをご承知のはず。
そういうこともあり、今回収録された短編ではシンデレラの代名詞でもあるガラスの靴が重要な意味を持っている、と。

もう、甲田学人作品に毒されている人なら「ガラス」と聞いただけでも身がすくむような思いをするでしょうけど、その想像はだいたいあっています。
(何かの短編にあった、眼球にガラスの破片を突き刺してまぶたをパチンとするシーンがトラウマになっている人は挙手)

そういった、痛みに訴えかけるスプラッタホラーな趣もさることながら、童話というモチーフを小説に落とし込む手腕も抜群に冴え渡っているときている。
今回で言えば、『シンデレラ』に出てきた、

36Pより引用。

「家族の誰かを愛するのに理由が要らないのと同じように、家族の誰かを貶めるのにも理由は要らないわ」


という、風乃の言葉から端を発した、
『なぜ、シンデレラの父親は彼女を助けようとしなかったのか?』
という童話のクエスチョンに答えるような内容など、童話から引き出した解釈を現代劇に落とし込む手法には脱帽の一言でしょう。


そんなわけで、満足。
十代の少女を中心とした物語ということもあり、文字通り身も心も痛々しいナイーブな青春小説になっているので、青春小説好きな方も必見ですよ。(エグイ描写に耐えられる人限定)

余談ですが、この本を読んだあとで久しぶりに『断章のグリム』を読み返そうかと思いしまっていた場所を調べるも、なぜか4巻だけが歯抜けでなくなっていて見つからなかったり。
……小人さんのしわざかなあ?(メルヘンな表現)

――――――――――
感想リンク。
『時槻風乃と黒い童話の夜』2巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』3巻

『断章のグリム』1巻
『断章のグリム』2巻
『断章のグリム』3、4巻
『断章のグリム』5、6巻
『断章のグリム』7巻
『断章のグリム』8,9巻

『Missing 神隠しの物語』
『ノロワレ 参 虫おくり』
『夜魔―怪―』
『霊感少女は箱の中』

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fujimiti