FC2ブログ

『断章のグリム』3、4巻 感想。「シリーズ屈指の本格ミステリ度をほこる、特殊設定ミステリの傑作」

ラノベ感想
08 /13 2014


甲田学人著『断章のグリム』の3、4巻。
再読すると、伏線とミスリードがちゃんとミステリしていてさらに評価が上がったな。

タイトルにも書いたとおり、本作は非常にライトノベルミステリ(特殊設定ミステリ)として優れている。
ミステリに詳しくない人ですと、特殊設定ミステリと聞いてもハテナと首を傾げそうなところですが、要するに超能力などの超常現象が謎解きや読者を驚かすことに用いられているタイプの作品のことです。
ミステリだと、このジャンルで一番有名なのは西澤保彦氏の諸作品(チョーモンインシリーズなど)だと思われる。

この『断章のグリム』をライトノベルミステリの傑作だと断定する所以は、そういった特殊設定を用いてライトノベルの形式を踏襲しつつ(過去の感想参照)、なおかつ本格ミステリの文法がちゃんと整っているからでしょう。

また新しい用語が出てきたものの、本格ミステリとはおおざっぱに言えば、
「犯人は誰か?」
「犯人はどうやって事件を起こしたのか?」
「犯人はなぜこのようなことをしたのか?」
など、謎解きが物語の中心にある作品のことをそう呼びます。

この『断章のグリム』では、本格ミステリの構造を成立させる設定がいくつも登場しています。

・恐怖を覚えたものが無意識のうちに悪夢を浮かび上がらせてしまう。
・事件は予言された童話の登場人物が実在の人物に配役されて起きる。
・主人公は犯人の恐怖と配役を理解することで特殊能力を発動できる。

それぞれをミステリ的に解釈するならば、
「フーダニット(犯人当て)」
「見立て殺人&予告殺人」
「探偵による解決編(探偵活動)」
という魅力に変換できるでしょう。

この型は1巻のころから整ってはいるものの、ページ数の関係からミステリとしての色合いが強くなるのはこの3,4巻からとなっています。
全17巻ある本作の中でも、この『人魚姫』をモチーフにした上下巻はシリーズでも屈指のミステリ度をほこる逸品です。

童話『人魚姫』がモチーフとなることが予言され、『泡によって人が溶ける』という奇怪な事件がとある田舎町で起きる。
関係者を童話に登場する配役に当てはめると、過去に起きた悲劇から人魚姫役にふさわしい人物はすでに亡くなっていることがわかった。

しかしその人以外にも、執拗に石鹸で手を洗う潔癖症の千恵やら、人魚にまつわる悲劇を経験した神狩屋と、疑わしい人物が次々と登場していく。

こうやって登場人物を増やしていきながらも、容疑者を限定させられるところが特殊設定ミステリの面白さでしょう。
あらかじめ、
「事件は童話の配役どおりに進んでいく」
と前提条件が整っているので、開かれた町で起きる連続した事件なのに、クローズドサークル(閉鎖環境)を形成できているのですから。

こうして、『人魚姫』から登場人物に配役を当てはめていき、容疑者が減っていくことでフーダニットも進み、
「童話の中で、誰が一番恐怖を味わったのか?」
という、既存童話の新解釈を現実の事件に当てはめ、もっとも恐怖を覚えたであろう人物を犯人として指摘するなど、ミステリの解決編そのものの結末が待ち受けている。

この解決編は、ミステリに慣れていない人が読むと意表を突かれてフーダニットとして成立していないように感じてしまうかもしれませんが、ひとつひとつ前提条件を確認していくとその完成度の高さに舌を巻くことでしょう。
童話を、そして実際に起きた事件の状況を丹念に読み解いていけば、必ずたったひとりの犯人にたどり着けるのですから。


途中に用意された白野と神狩屋による童話に対するペダンチズムや、配役を当てはめるなら誰が一番美しいかというディスカッションなど、ミステリ好きにはニヤリとできる展開が目白押し。
ミステリとして語られることが少ない作品なだけに、ライトノベルのみならずミステリが好きな方にもぜひとも読んで欲しいところです。

ミステリ要素以外にも、ラストに待ち受ける重たすぎる一行や、現実と童話というハッピーエンドとバッドエンドの対比。
あまりにも純愛しすぎている悲恋ものとしても面白い、シリーズ内でも屈指の名品ですね。
オススメです。


ミステリ要素を中心にした、ネタバレ全開な感想も書きます。
以下、折りたたみ。

――――――――――
感想リンク。
『断章のグリム』1巻
『断章のグリム』2巻
『断章のグリム』5、6巻
『断章のグリム』7巻
『断章のグリム』8,9巻
『断章のグリム』10,11巻
『断章のグリム』12,13巻
『断章のグリム』14,15巻
『断章のグリム』16,17巻

『時槻風乃と黒い童話の夜』1巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』2巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』3巻
『断章のグリムⅢ、Ⅳ 人魚姫』のネタバレ感想です。
物語の核心に触れる部分がありますので、未読の方はご注意ください。




本書の事件(悲劇)は、二部構成になっています。
現在を中心にした『人魚姫』の事件と、過去の神狩屋を中心とした『八百比丘尼』のふたつです。

この3,4巻では、最初から最重要容疑者として千恵がいたのですが、神狩屋の過去の事件が判明しないうちは彼もまた容疑者の筆頭でした。
そのため、怪しい人物としては、

1:人魚姫の配役は神狩屋の婚約者の志弦であり、彼女の悪夢の残滓が現在の事件を引き起こしている。
2:人魚姫の配役は志弦であり、彼女の死のトラウマから神狩屋が現在の事件を引き起こしている。
3:人魚姫の配役は志弦の妹の千恵であり、彼女が悪夢を引き寄せている。

という三つの可能性が考えられます。

通常のミステリですと、ここから犯行が行われた状況から消去法を行うものなのですが、本書では、
『恐怖を覚えた人間が自動的に事件を引き起こす』
という特殊設定を用いているために、犯人自身にすら自分の犯行に気づけません。
そのため、味方であるはずの神狩屋ですら容疑者として成立するのは上手い部分でしょう。

怪異を引き起こす〈断章〉はひとりにひとつしか宿らないものの、神狩屋がどのようなトラウマを抱えているのかわからないので、読者や主人公の白野からすれば彼が犯人でもおかしくない状況にあるのですから。
(さらにいえば、この作者なら重要人物でもあっさり殺すだろうという、ある種の信頼も関係していると思われます)

なので、事件を解決するためには、

「登場人物のうち、誰がどのような恐怖を覚えたのか?」

という童話の解釈と、

「実際に起きている事件で、その恐怖を味わっている容疑者は誰か?」

という、現実の事件の解釈の二通りの推理を行わなければなりません。
そのあとにたどり着く消去法フーダニットがじつに秀逸です。
事件の本質を、

『泡によって人が溶ける』

と解釈し、そこから恐怖の源は泡であると判断したあと、

『三人の容疑者は誰も泡を恐れていない』

と繋げる部分は本書の白眉でしょう。

志弦は泡のように消えた人魚姫として、潔癖症の千恵は石鹸の泡を用意して『泡』を読者に印象付けているところも巧みです。
このレッドへリングに気づかなければ、彼女たちを容疑者から外すことが出来ないのですから。

さらにいえば、
(※犯人を示しているため伏字※)
上巻132Pの時点で、幸三が泡を嫌悪していたという伏線も見逃せません。
(※伏字終わり※)

志弦、千恵が泡を恐れていないことに気づいたとしても、神狩屋の存在がミステリとして抜け目ないものにしています。
『人魚姫』における王子様として配役された神狩屋は、泡のように愛する人を失った過去があるので、『泡』を恐怖してもおかしくない立場にあるのですから。

また、童謡の『シャボン玉』が作中のそこかしこでほのめかされているところも見逃せないでしょう。
この歌は子供に先立たれた親が作詞したものとして有名なので、さらに神狩屋犯人説の裏づけになっています。

そしてそれらの伏線が、神狩屋の本当のトラウマは『人魚姫』ではなく『八百比丘尼』であると判明することで一転。仮説と前提条件を一気に壊し、容疑者を不在にさせる様は見事の一言です。
『人魚姫』から『八百比丘尼』と、人魚を題材にした別の物語に関連付けるあたりは作者の本領発揮といったところでしょう。

志弦は童話の解釈から、千恵は現実の状況から、神狩屋はより深いトラウマがあるという事実と、三者三様の消去法が行われているなど、手掛かりがばらけているところも見事です。

三人が三人とも泡と関連付けられながらも犯人ではなかった。
そのため、

「童話の『人魚姫』の中で、もっとも泡を恐れていたのは誰か?」

にホワイダニットの焦点を絞り、現実の状況である、

「この状況で、もっとも童話と同じような恐怖を味わっているのは誰か?」

と、童話の解釈から続く怒涛の解決編と、それに伴う泡の恐怖を顕現させた崩壊のカタルシスは圧巻です。

この解決編は、ややホワイダニットに傾むきすぎているので人によっては納得しづらい部分もありましょうが、
(恐怖とは数値で測れるものではなく、個々人の感情なので)
それでも、『人魚姫』の恐怖の根源を、
「何もせずに手をこまねいていると死んでしまう」
と考えれば、本書の犯人にも納得できることでしょう。

さらに言えば、童話にだけ目を向けていては気付きづらい、
(※犯人を示しているため伏字※)
「もっとも近親者を亡くした人物は誰か?」
という、当たり前すぎる恐怖を着地点として用意し、
「母親である牧子は、亡くなった親族たちを恨んでいたので直接の血縁である幸三ほどの悲しみを味わっていない」
(下巻 107P参照)
「よって、泡によりもっとも被害をこうむった人物は幸三である」

(※伏字終わり※)
という、現実世界の事情を浮かび上がらせる手腕には脱帽ですね。

童話に目を向けなければ解決できない事件だからこそ、現実世界の悲劇が注意の外になってしまうという、秀逸なミスディレクションでしょう。


〈泡禍〉という超常現象と『人魚姫』の解釈という前提条件を用意してから、現実に起きた事件の解釈というホワイダニットを混ぜて唯一無二の犯人を探し出す。
まさに、特殊設定ミステリの傑作でしょう。

続く5、6巻の『赤ずきん』もミステリとして優れていたように記憶していますので、いずれ感想を書きたいと思います。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

fujimiti