FC2ブログ

『断章のグリム』8、9巻。感想。「童話の『なでしこ』を題材にしたライトノベルミステリ。〈断章〉という特殊設定の扱い方はシリーズ随一」

ラノベ感想
12 /20 2014


『時槻風乃と黒い童話の夜』の3巻も発売するので、7巻から止まっていた感想の続きでも書くかと思いざっと読み返す。
『断章のグリム』の8巻と9巻。今回題材となる童話は『なでしこ』です。

あとがきで作者も語っているように、マイナーグリム童話である『なでしこ』
自分もこの本を読むまで聞いたこともなく、作者によれば絵本でも見たことがないという一本。
いままでの有名なモチーフとは違うので、これから読む人はちゃんと作中で挿入されている『なでしこ』を読んでおくことをオススメします。

さて。
ホラーファンタジーとして紹介されることが多い本作品ですが、ミステリとライトノベルをこよなく愛する当ブログからすれば、当然ながらこの作品もミステリとして強くプッシュしていきます(強引だなあ)

詳しくはネタバレになるので折りたたみますが、今回もミステリ的なプロットと童話の新解釈が組み合わさった佳作と呼べるのではないでしょうか。

たしかですが、このあたりまでがミステリとしての色合いが強い物語で、次の巻から先はサスペンス重視の物語に変わっていったと記憶しています。
なので特殊設定ミステリとしても読めるという、当ブログで楽しんでいた面白さはほぼこれで最後。
個人的には、もっと作者のミステリタッチな作品も読んでみたいところですね。

――――――――――
感想リンク。
『断章のグリム』1巻
『断章のグリム』2巻
『断章のグリム』3、4巻
『断章のグリム』5、6巻
『断章のグリム』7巻
『断章のグリム』10,11巻
『断章のグリム』12,13巻
『断章のグリム』14,15巻
『断章のグリム』16,17巻

『時槻風乃と黒い童話の夜』1巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』2巻
『時槻風乃と黒い童話の夜』3巻
以下、『断章のグリム』8、9巻のネタバレが含まれますので、未読の方はご注意ください。




童話の解釈は面白いものの、いかんせん謎解き部分がけっこうわかりづらい。
これはおそらく、作中に登場する〈断章〉がどのようなものかが最後になって一気に説明されるせいでしょう。設定を前提条件として提示していないので、解決編の飛躍についていくのが難しくなっている。

今回はふたつの『なでしこ』の物語の予言があり、それに符合するようなふたつの怪異があることで事件をややこしくしていた。
ミステリ的にいえば引継ぎ殺人やギャンビットにも近いのだが、どちらかといえばふたつの事件が同時進行に起きていたといったほうが正しいのだろうか?

自分なりに事件の流れをまとめてみると、

梢枝さん=最初の『なでしこ』の王妃を中心にした『死者に糾弾される』という恐怖と、一真=二番目の『なでしこ』の狩人を中心とした『隣に死者が暮らしている』という二種類の恐怖が存在する。
琴里の死からまず、梢枝の〈泡禍〉が浮かび上がってくる。その〈泡禍〉のせいで母親の秋子が亡くなり、ふたりの家族の死によって追い詰められた梢枝が自殺する。
これにより、第一の『なでしこ』の物語である〈泡禍〉は事実上終わりを向かえる。
しかし、これらの〈泡禍〉によって、一真の〈断章〉も知らず知らずのうちに発動してしまい、第二の悲劇も同時進行で起きることになった。

この事件、
「〈泡禍〉は恐怖によって引き起こされる」
「〈断章〉はかつて遭遇した恐怖(と似たもの)を引き金にして発動する」
というふたつの設定を融合させて、
「恐怖(〈泡禍〉)が新たな恐怖(〈断章〉)を呼び寄せる」
と、事件を複雑にした展開はとても美しい。

しかしこれは、『断章のグリム』の設定である〈泡禍〉〈断章〉〈異端〉の違いをよく理解していないとかなりわかりづらいものになっている気がする。
自分自身、上記の説明で本当に設定の解釈が合っているのか自信がないことだし。

個人的には作者がちゃんと設定を把握しており、それを利用して謎を用意しているところは好みなので、すぐに驚けなかった自分が悪いといえば悪い。

ちなみにですが、自分が『断章のグリム』がミステリだと思うところは、作品のプロセスにある。
自論になるが、本格ミステリとは、

・『作品の中心に謎があり』
・『証拠を取捨選択し』
・『解決に論理の飛躍がある』

ものを指している。
『断章のグリム』でも、〈泡禍〉という謎が中心にあって、童話という見立てを解釈し、そこから主人公サイドには一見するとわからない部分を飛躍で補って真相に到達するというプロセスを採用しているので、本格ミステリ足り得ている。

この『論理の飛躍』という部分が大きすぎたり、明後日の方向へ進んでいるとミステリの純度が低くなり馬鹿ミスにまで足を踏み入れてしまうのだが、
(犯人は松尾芭蕉とかそういうの)
本作はちゃんと一歩一歩推理の道筋を説明しているので、十分に本格ミステリと呼べるはずです。

本作においても、〈断章〉があるからこそ起きた悲劇を〈断章〉によって無理やり封じ込める手法や、『なぜ、それで封じ込められるのか?』という残酷なまでの歪なロジックは必見。
このあたりは、『冷たい方程式』にも似た特殊設定シチュエーションの醍醐味と言えるでしょう。

いままでの作品で出されてきた〈断章〉のルールを作者がもっとも力強く操った作品と言えますね。

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/11/10)
トム・ゴドウィン・他

商品詳細を見る
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

fujimiti