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『DRAGON BUSTER』秋山瑞人+ボーイミーツガール論

ラノベ感想
02 /02 2012
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ボーイミーツガールの神様、秋山瑞人が贈る中華ファンタジー。とびきり面白かった!
第1巻から2巻までのあいだ、三年半以上も待ちのぞんだ甲斐があったというもの。

この作品は、中華系武侠小説としても非常に優れているが、構造としてはボーイミーツガールの王道を歩むものだった。
どれだけ舞台設定やら語句に凝ろうとも、少年と少女が主人公であるならば、作品はボーイミーツガールの色合いから逃れることはできない。
秋山瑞人は、恐るべき巧みさでボーイミーツガールと武侠小説の両者を描ききってくれた。

お話としては、細かい設定などを省いてしまうと、
『自分に自信のない少年、涼孤と、自信満々な少女、月華が出会う話』
である。

たんに自信がないと言っても、本書は舞台を古代中国にして、設定に説得力を持たせている。
現代劇にすると、自信のなさの動機付けがどうしても軽いものになってしまうのだが、本作は差別を扱い、涼孤を虫けら同然の境遇にして、とことんまで自信や期待というものをなくさせている。
月華も王族ということで、時代に似つかわしくない、自信満々の子供という人物配置ができているので、この中華ファンタジーの設定は正解だろう。
この、古代中国ゆえの境遇である涼孤と、現代人に近い感覚を持っている月華。相反する境遇のふたりの出会いに、読者はいやが上にも期待が高まっていく。

さて、ここまでボーイミーツガールと何度も書いてきたが、ここでその定義を再確認しておこう。
古今に関わらず、少年と少女が出会う物語は数多く作り出されてきた。
ここ最近でも、その出会いのパターンを、転校生、異世界召喚、突然同居、空から振ってきたなどなどなど、さまざまな方法で少年と少女を出会わせている。

しかし、この秋山瑞人の作品を読んでしまうと、ただ少年と少女が出会うだけでは、ボーイミーツガールとして不完全だということがわかる。
どうすれば、真なる意味でボーイミーツガールになるのか?
それは、『少年少女に、相手のことを意識させる』ことが必要不可欠なのだ。

たんなる一目惚れでもいい、ふとしたきっかけや重大な事件の末に意識することもあるだろう。どのような理由にせよ、相手を意識しないうちは物語が始まらない。
この『DRAGON BUSTER』で、月華は涼孤に一目惚れをした。これは、明確なる意識だろう。
涼孤は当初、月華のことをうるさい子供くらいにしか考えていない節があったが、ふとしたことで彼女から自分の苦手とする香水の香りがしてこないことに気付いた。
その瞬間、涼孤の中で月華は、名もなき少女Aから、気になる女の子へと変化した。

この、明確なる意識した瞬間を描くのが上手い。いや、上手いではなく巧い。巧みの技だ。
ごく普通の、恋愛とはまーったく無関係に思える場面で、ふとしたとき少年が少女を意識した瞬間――ボーイミーツガールが始まった瞬間――を描けるのは、まさに神業というしかない。

1巻では、その後も相手を意識できるようなイベントが用意されていて、読者としては、
「さあこのまま、少年少女の話を心行くまで楽しもう」
と、心踊らせながらページを捲っていくはずだ。
……その先に待ち受ける第2巻。あの場面! あの状況で、あの台詞!
破滅的なタイミングの悪さと、客観視したときの納得できる両者の感情のすれ違い。これには思わず、
「やってくれたな、秋山瑞人ッ!!」
と、叫び声をあげてしまうほどの出来事だった。
(※ 具体的にいえば、2巻317P)

登場人物が、なにひとつ悪いことをしていないのに、相手に対する気持ちの重さの違い、境遇からくる認識の違いが、残酷なまでの隔たりとなる。
この前後に登場した、各登場人物たちの無力感といい、同作者の『イリヤのUFOの夏』を読んだときに感じた圧倒的な青春――欲しいのに、届かない。手を伸ばしたのに、逃げていく――をまたしてもぶつけられた気分だ。

物語をどのような設定で、どのような時代、どのような人物にしたところで、秋山瑞人の手にかかれば超一級のボーイミーツガールへと変化する。まさに、ボーイミーツガールと青春劇の神様だ。
あらためて、そのことを感じられる傑作だった。
この衝撃は、やや趣が違うとはいえ「『イリヤの空』3巻と同じくらいすンごかったよ」といえば理解してもらえるだろうか?

ボーイミーツガールを予感させる1巻。怒涛の展開の2巻も終わり、あとはただ、結末の3巻を待つだけだ。
さて、完結編で彼らがどのような無力感と救いを見せてくれるのか。いまから、楽しみでしかたがない。

…………こんどは、3年も待たされませんよね、ねえ?
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fujimiti