FC2ブログ

綾辻行人『Another』感想。

ミステリ・SF感想
02 /04 2012
Another(上) (角川文庫)Another(上) (角川文庫)
(2011/11/25)
綾辻 行人

商品詳細を見る
Another(下) (角川文庫)Another(下) (角川文庫)
(2011/11/25)
綾辻 行人

商品詳細を見る

(※ ネタバレ全開なので、アニメで楽しみたい人は注意 ※)

アニメ版も始まったので、『Another』原作のネタバレ感想を書きます。



『Another』には面白い部分がいくつもあるが、よく言われるのはホラーとミステリの融合だろう。
ホラー小説をあまり読まない自分が言うのもなんだが、本書はあまり恐怖を感じるものではない。
たしかに怖いことは怖いのだが、不条理の中にルールがあるので、すべてが終わってしまうような、取り返しのつかない恐怖にまでは及んでいないのだ。

そこで、この作品のもうひとつの魅力である『ミステリ』が重要になってくる。
いわゆる、本格ミステリとは違い、謎らしい謎が見えにくく、解決のためのヒントも乏しい。
しかし、中盤からフーダニット(犯人当て)が提示されることによって、作品は疑心暗鬼ホラー(とミステリ)の要素が強まり、さらに結末では心霊現象を利用したとある驚きを読者に与えてくれる。

作品の面白さを書く前に、ホラーのジャンルを少しだけ紹介しておこう。小説方面は明るくないので、映画のジャンルなのはご了承願いたい。

まずは、殺人鬼が登場する『スラッシャー』もの。『13日の金曜日』などが有名ですね。
次に、幽霊の恐怖に怯える『心霊』もの。ジャパニーズホラーといえば、まずこれが連想される。
あとは、地方や集団の決まりに巻き込まれる『オカルト』。『オーメン』はこのジャンルなのか、それとも偶然なのかと悩む楽しみもあります。
そして、それらのジャンルを内包する、舞台が中心の『田舎怖い系』のホラーだ。
この言葉にピンとこない人は、『悪魔のいけにえ』『悪魔の追跡』『蝋人形の館』や、漫画にもなった『屍鬼』『ひぐらしのなく頃に』を思い浮かべてくれれば、だいたいのイメージはつかめるだろう。
ようするに、独特の風習に巻き込まれたり、閉鎖的な状況で恐怖に遭遇するというものです。

『Another』では、それら数多く存在するホラーのジャンルを渡り歩くようにして恐怖を描いている。
はじめ、恒一が転校してくると、クラスメイトの見崎鳴が周囲から存在しないように扱われている。
その後、三年三組ではクラスに死んだ生徒が紛れ込むという怪談を聞く。周囲の人物も、鳴が存在しないように扱い、さらには恒一に対しなにか隠しごとをしている描写を描き続けていく。
このとき、読者は「鳴が幽霊なのではないか?」という疑惑を抱き、それによって死者が出る『心霊ホラー』だと判断するだろう。
同時に、クラスメイトが何かを隠していることで、地方による風習が関係した『田舎怖い系ホラー』としての側面があるとも感じるに違いない。

このあと、鳴は実在する人間であり、怪奇現象を鎮めるためのルールとして、彼女のことを無視していたことがわかる。そのことは、話題にしてもいけないので、恒一は知ることができなかったのだ。
このルール設定は見事なもので、ミステリやホラーでよくある「最初から説明しろよ!」という読者のツッコミを上手く回避するものになっている。
ホラーに限らず、説明しないことによってもたらされた悲劇には、いやってほど思い当たるでしょう?

怪異は、亡くなった死者がクラスに紛れることで起きる。
死者は過去に死んだ人から選ばれることがわかり、そこから主人公の恒一そのものがすでに死んでいる可能性が出てきた。
ここに至るまでに、恒一は過去にこの町にやってきたことがあることが判明しており、さらに祖父母の台詞からも、過去に家族の中から死者が出たことが示唆されている。
見崎鳴が生者なのか死者なのかわからないまま、「恒一が死者なのか?」という恐怖と疑惑で緊張感を保ちながら、ミステリ要素の核である『人死にを停止させる方法』が判明する。

その解決方法は、ホラーとしては理に適っているのだが、「死者はだれであるか?」を絞りこむのに超常現象を扱っているので、本格ミステリとしてはややアンフェアな領域に足を踏み込んでいる。
意外な犯人という、予想外の驚きとしては十分なものとなっているだが、やはり最後の最後まで理詰めで追い詰めて欲しかったと思うのは、ミステリ好きの悪い癖だろうか。

このように、当初は『田舎怖い系ホラー』のような舞台で、『オカルトホラー』なのか『心霊ホラー』なのかわからない、足元の不安定さで読者を牽引し、中盤以降はルールが判明して『死者探し』のミステリとなり、最後の最後でホラー要素を利用した意外な犯人で驚きを与えるという構造になっている。
『Another』が、ホラーとミステリの融合と呼ばれるゆえんは、ここにあるのだろう。どちらも中途半端になっているのではなく、ホラーめいた舞台設定でミステリを行いながら、解決ではやはりホラーの力を借りるという、どちらが欠けても成立しない作品にしているのだ。
本書はやはり、ミステリ作家としての伏線とミスリード、ホラー作家としての足場が不安定になる恐怖と、綾辻行人の面白さが存分に詰まった良作だろう。
――――
『感想リンク』
綾辻行人:『鬼面館の殺人』
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

fujimiti