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『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』萬屋直人

ラノベ感想
02 /14 2012
旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)
(2008/03/10)
萬屋 直人

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1巻完結名作シリーズとしてよく名前の挙がる作品。『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』

存在が徐々に消えていく『喪失症』によって滅びかけている世界を、少年と少女が一台のカブに乗って旅を続ける話。
冗談抜きで、ただこれだけ。その理由も解決もなく話が進み、どこまでも、どこまでも旅は続いていく。

いわゆるセカイ系のジャンルになるんだろうけど、構成がとっても上手い。
3章で構成されており、最初の話では背景設定がほとんど語られず、ただ少年と少女が不思議な世界を旅しているところを描く。
第2章で、徐々に設定が語られてきて、ある物悲しい出来事を目撃する。
そして最終章に待ち受ける、未来へ向けられた希望と感動。
大きな設定の中で、なにもしないをしている少年と少女を描くだけで、これほどまでのカタルシスを描けるとは思わなかった。

ぶっちゃけると、同年代の黒髪ロングさんと、カブに乗って二人旅。目的地は世界の終わりまで、って設定からして、この作品が名作になるのは決定したといってもいいでしょう。
これだけでも絶対に読むこと間違いなしなんだけど、その設定だけに頼らず、作中に漂う、楽しい旅のはずなのに終わりが待ち受けているうすら寂しさ。
「少年」「少女」という、無個性ゆえに個性的な呼称と、旅を続けるうちに見え隠れするふたりの関係など、どこからどこまでも、惹きつけられる。

前述のように、設定だけでも名作になる資質を感じるのに、構成がとっても上手いんだよね。
お話っていうのは、背景設定はあくまでも背景であり、けっきょくのところ登場人物や物語にひきつけられればそれだけで面白くなるもの。
この作品も、「少年」と「少女」のふたり旅という設定が非常に魅力的で、他の設定なんかなーんもなくても楽しめるほど、旅の面白さが描けていた。

『雨も風も日照りも嵐も友達だった』

これは、本ブログのタイトルの元ネタである『この道わが旅』の一節。
本書もまた、これと同じような『旅』の魅力を描いていた。
どのような苦難も出会いと別れも、彼らの日記を彩る一ページでしかない。

旅の雰囲気もさることながら、物語のほうも見事なもの。
旅の楽しさ⇒喪失する世界の恐ろしさ⇒そこに残された希望。という、いわゆる序破急がちゃんと守られている。
たんなる雰囲気やらキャラを楽しむだけではなく、彼らに出来る世界への抗いという、青春小説的であり、SFめいたカタルシスが最後に待ち受けているのが心憎い。
およそ、連作短編としては、これ以上ないってくらいの見事な出来だった。

あまりにも好みなだけに、とある一点だけが非常に残念。
さまざまな部分が優れており、どこまでもどこまでも楽しめた作品だけに、アレだけはどうしても納得できない。
ネタバレになるので白字で書くと……、
(※ ネタバレ注意 ※)
最後の最後で『能登半島』という、場所を特定する単語をだしてしまったこと。
本書が「少年」と「少女」が残した日記だとするならば、固有名詞は書き残せないはずだ。そのため、この部分だけはどうしても容認できなかった。
『地名や固有名詞を書かなければ、書いたものを残せる』
というルールが作中で書かれており、『北の地』『姫』など、他の部分では固有名詞を避けているだけにとてももったいない。

(※ ネタバレ終わり ※)

雰囲気もさることながら、「少年」と「少女」の友達以上恋人未満な関係がとても好みだったので、劇的な変化や展開が訪れず、一年に一回くらいのペースで新しい話を読み続けたいところ。
いつまでも、いつまでも、この雰囲気を楽しんでいたい。そう感じられる、輝かしいひと時の物語だった。
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