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ラノベ感想:『少女は書架の海で眠る』「中世ヨーロッパの日常描写なら天下一品の支倉凍砂先生による青春ビブリオファンタジーの傑作」

ラノベ感想
12 /10 2015


電撃文庫、支倉凍砂著『少女は書架の海で眠る』
いままでの作者のシリーズの中で一番好きになった話だな。面白いうんぬんではなく、大好き。

これは本当に好みだったなあ。
元々ファンタジー世界の日常やお仕事描写がやたらと細かい人だったけど、今回はそれと青春小説がとても上手く融合しビブリオミステリのような雰囲気で進んでいく。

過去のシリーズではケモミミなど何らかの非現実的ファンタジー要素が含まれていたものの、今回は完璧にそれをなくし、わずか五人ほどの人間と数千を超える本だけが登場人物という、ビブリオファンタジーの名にふさわしい出来になっていた。

物語の構造も、過去シリーズより好み。
故人がなにを思って本を集めていたのかを探るという、ビブリオミステリおなじみの手法で進んでいく。

この方式は最近流行りの『ビブリア古書堂の事件手帖』が元祖というわけではなく、日ミスの元祖である北村薫先生やら、日ミス&青春ミステリの旗手である米澤穂信先生なども扱っている手法なんだけど、この作品は背景となる設定がとても上手い。

時代設定を現代ではなく中世ヨーロッパにしたことで、本の価値そのものが現代とはまったく違うと来ている。
書籍商という、本の売買を行う商人になるのが主人公の夢なのだが、そもそも羊皮紙で書かれる本はすべて写本であり、高価すぎて買い手が付かない。

買うのは道楽者の貴族だけであり、その貴族でも一般的な人は戦争のための準備に費用を使うもの。
そもそもにして、一般市民は文字すら読めないのだから本を必要とする人はどこにもいない。

そのため書籍商は「霧を売る仕事」、つまりは金が動かない夢物語な商売で仕事としてはなりたたないと考えられている。

そんな世界なのに、本が好きで好きで好きでしかたなく、どうにかして本の魅力を人々に伝えたいと願う主人公がとても切なく、素晴らしい。

現代の視点では当たり前のように出来ることが、彼には出来ない。
そんな彼と出会うのが、本を読めるのになぜか本が嫌いだという少女という、美しいボーイ・ミーツ・ガール。

この主人公とヒロインの設定も好みだなあ。
過去シリーズの二十代な大人主人公も希少価値的意味がありとても好みだったものの、自分はやはり十代の少年少女の物語が大好きなんだと再確認できた。

少ない登場人物と小さな教会という狭い場所を舞台にして、

「本は役にたつのか」
「本にはどれだけ重要なことが書かれているか」
「そもそも、本を役に立てるという考え自体が正しいのか」

など本にまつわるそれぞれの解釈が語られ、言葉ではなく実情として「本は何の役にも経たない」という現実を突きつけ、そして最後には上手く読者をだまそうとする試みが用意されているなど、最初から最後までとても好みにあっている作品だったな。

1冊で完結する青春小説の新たな傑作に出合った気分だね。
今年も何だかんだで優れた作品にいくつも出会えたもんだなあ。

ファンタジーが好きな人のみならず、本が好きな人には絶対に読んで欲しい作品です。


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感想リンク。
『マグダラで眠れ』1巻。
『WORLD END ECONOMiCA』
『新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙』
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