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ラノベ感想:『ただ、それだけでよかったんです』「第22回電撃小説大賞、大賞受賞作! いじめを題材にした傑作青春ミステリ」

ラノベ感想
02 /12 2016


電撃文庫、松村涼哉著『ただ、それだけでよかったんです』
第22回電撃小説大賞、大賞受賞作品。

めっちゃくちゃ面白かった。
ライトノベルって、時々こういうメディアミックスにまったく向かないド傑作青春小説と出会えるから止められない。

内容。
十四歳の少年がいじめを苦に自殺した。
彼が残した遺書には、菅原拓は悪魔であると書かれていた。

冒頭からある人物の死があり、真相を探ろうとする少年の姉と、いじめの首謀者とされる菅原拓による「失敗」の告白という、二つの視点と時間軸から描かれる物語。

こういう、ひとりの死をきっかけにして過去に何が起きたのかを調べる作風はミステリではけっこう見かけるもの。
よりミステリ度を高めると米澤穂信っぽくなるし、ライトノベルでも『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』というような作品が存在する。

この作品もそのように現在進行形の話と回想を交えて進んでいくのだが、良い意味で読者の予想をどんどん裏切り、驚きの結末へと向かっていく。

設定と構成の妙を語ろうとすれば、人間力テストは外せないだろう。

人間力テストという、生徒によるクラスメイトのランク付けがある学校。
生徒たちは「リーダーに必要な能力は何だと思うか」「同じ学年の中で人望を持つ人物を挙げてください」など、いわゆる人間性と呼ばれるようなものに焦点を当てた問題に答えなければならず、学力と同じように自分の人間力を点数にされ伝えられる。

当然ながらそれは、テストの点数などとは比べ物にならないほどのスクールカーストを生み出していく。
主人公である菅原拓は全校生徒でもワースト13という文字通り最底辺の生徒。
そんな彼が、クラスどころか全学年でもトップカーストに位置する四人の生徒をいじめ、ひとりを自殺にまで追いやったというのが事の発端。

これは、もっのすごかったなあ……。
スクールカーストものはライトノベルではおなじみの題材だけど、ここまで最底辺の主人公からの「革命」と「失敗」を描ききるとは。

スクールカーストを浮き彫りにさせる「人間力テスト」という設定がまず凄い。
この制度の歪みは作中人物のこの言葉が一番的を射ているでしょう。

88Pより引用

「みんな、同じことを言うんです。親も先生もマンガもアニメもみんな『友達を大切に』ってニコニコしながら唱えるんです。頭良くても仲間を大事にしなくちゃダメって。力が強くても最後に大事なのは友達だって。だったら! 周りから『友達になりたくない』って否定されたら――人間として救いようがないってことですよ。人間力テストは――その指標です」



個人的にはこの人間力テストとスクールカーストを絡めた設定だけでも青春小説として「勝ち」だと思うのだが、ミステリとして読んでもかなりのもの。

事件の中心人物、菅原拓を探る被害者の姉という素人探偵めいた行動もそうだけど、なにより、菅原拓が信用できない語り手としてとても上手く機能している。

周囲からは悪魔と罵られ、自身もクズであると認めていることもあるが、冒頭からして「菅原拓の言葉を信じてはいけない」と遺書に書かれているせいで、それがより強く発揮されているし。
イラストが竹岡美穂さんだから表紙は淡い感じになっているけど、味わいとしては江波光則作品(『ストレンジボイス』『鳥葬』など)と比べても遜色ないよなこれ。

途中途中で差し挟まれるLINEによるクラスメイトからの「死ね」という誹謗中傷、何も知らない部外者のツイッターにあげられる「死ね」という無責任な発言。

それら負の感情を一身に受ける菅原拓が考えていた革命とはなんだったのかが事件の中心になるのだが、そのバカバカしいまでに楽観的なハッピーエンドな目標と失敗のギャップ。
そしてタイトルである「ただ、それだけでよかった」ことの重さがまた見事に重苦しい読後感を与えてくれる。

感動した、泣いた、なんていう言葉で説明するにはあまりにも重苦しい物語ではあったが、自分としては間違いなく大好きだったと言える。

内容としては完全に一巻完結、続きを出そうものなら蛇足以外の何者でもないというあたりも好みと合致していた。
これは間違いなく大当たりな一冊だったね。
またひとつ、自分の中での傑作青春小説コレクションが増えた気分だ。

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感想リンク。
『おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界』
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